道南紀行 ─ 寝台特急日本海に乗って
2009年5月
函館へ
北斗の車内は古くて黄ばんでいた。蛍光管だけのせいではない。外観は今風だが、いつの間にか年月が経ったんだな。ともかく轟然と闇の中を、車体を右に傾け、左に傾けして突き進んでいて、時間短縮だけが使命といった真剣な走り、何だか上客になったのを感じる。車内は四十から五十のスーツ姿の人がよく目に付いた。このような格好の人はこの地域の普通列車内ではほとんど見かけず新鮮だった。なんだビジネス人はこんなところにいたのかと思う。
この列車は今回はまだ走ったことのない駒ヶ岳周りのため、車窓を注視していたが見えるわけもなく。諦め悪くことあるごとに覗いていたが、やっと見えたと思ったら渡島大野駅で未知の区間はとうに過ぎていた。しかもこれじゃまもなく函館に着く。36分間の乗車だから仕方ない。
五稜郭に入るころには速度をすっかり落としていて、以来あの走りを見せることはなかった。駅前の大型電気店の明かりが見えて、街に入ったという感じだ。ここを出れば放送で言われなくても、めいめい網棚から荷物下ろすなどし いそいそと降りる支度をしはじめる。その光景の中、本日もJR北海道をご利用くださいましてありがとうございました、まもなく終点函館、函館です、と流れるのは、北斗の車内のいつもだろう。
函館着。
だるい気分を抑え、狭い戸口からホームに足を下ろした。初夏でもじっとしていれば冷えてくる寒さにも疲れを覚える。夜の煌びやかな函館駅は今回二回目だ。もう旅も終わるんだなと思う。おとつい あんなにわくわくさせられたのに今はむなしい気持ちだった。
出会いはそれは胸ときめくものだが馴染みの友となってからもいろいろ解釈し直したいと思う。
ここで1時間半の持ち時間、予定では入浴する予定だったがせわしないし疲れてもいてあっさりカットした。森で買った分は差し置いて 食事でもしようかと考えたりするけど、時刻は22時前、2階のレストランはとうに閉まっている。とりあえず外へ。
乗ってきた特急北斗。
雰囲気を色濃く出した演出。
改札前。
改札を出て。
どこも営業終了。
緑色は水銀灯のせい。
夜はこんなふうに見える。
昔ながらのスタイルのネオンサイン。
ロワジールホテル。
夜の函館駅駅舎その1.
2.
明かりを大きく落とし、お洒落にぽつぽつ灯りともした宏大な石敷を独りで荷物担いで歩く。旅行しているんだなと思う。前に同じ感じで、同じ年ごろの単行の人が歩いている。天気も良いし来たんだろう。しかし彼の持っているのはジュラルミンボックス。レンズやマウントが入っているに違いない。独りでそこまでして来たいというのは、この人もよほど好きなのだなと思う。
食事しようと思ったが、もう森で買ってあるし、無駄遣いして安楽すると明日最後の孤独な一日が台なしになりそうに思え、最寄りのコンビニに立ち寄ったきりになる。
その後は函館駅でまんじりともせずただれた。相も変わらず地元の爺さんや若者が椅子で身を崩している。高らかに特急の到着を知らせる女性駅員の肉声放送も空しく吹き抜けに響き渡る。誰も聞いてやしない。トーンを落とした普通列車の案内だけには我々は敏感に反応し、女性駅員を気落ちさせる。
まーた昨日と同じ光景。横臥防止の突起もええツボ刺激になるわと
ものともしない。
函館開港150周年記念のイベントをやるらしい。
つい昨日までこういう告知やカウントダウンはなかった。
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