千路駅
(七尾線・ちじ) 2008年4月
車掌がいかにも長距離運行の末の終着駅を案内するかのように、ちじ、ちじです、と発声するので、千路とはそんなたいそうなところなのか、と思った。現に羽咋という街から離れす去って隣駅千路に向かう列車は、早くも田園地帯に突入している。
ホームに降り立つと、遠く列車後方で、車掌が少し手間取りながら老夫婦二人の改札をしているのが見えた。きっと私のところにも走って来るだろう、と思ってちょっと待っているふうをしていたのに、彼は遠くから私の姿を一瞥するや、踵を返し乗務員室に入り、ホイッスルをふかしてしまった。私は驚いてうつむき、なんで改札してくれないんだろう、と、のけ者にされた気持ちを抱きつつ、列車が完全に離れ去る前に、駅からいったん出た。やっぱり今日、一回あの車掌の列車に乗っていたのだろうか。
しかしもともと集札するつもりはなかったのかもしれない。だってするつもりなら、七鉄の車掌は、いつも駅出口に最も近いドアにあらかじめ移動しておくからだ。けれども老夫婦が進んで切符を見せたのではなく、車掌自ら確認したのを私は捉えていた。それにあの一瞥があった。中途半端な改札と片付けることができるといえばできた。
駅舎を過ぎて津幡方面を望む。
駅前側の様子。
駅名標。七尾までしばらく特徴のない区間となる。
ホーム七尾方端付近にて七尾方を望む。
知事選の験担ぎとしてどうだろう。
ホームから津幡方に見た駅舎。
出入口付近の様子。嵩上げのため段差ができている。
下に小川が通っているのだが、この白い鉄骨は架線を掛けていたトラスだろうか?
水路の様子。
津幡方端付近にて。
羽咋・津幡方面を望む。駅前だけ集落があり、ほかは平地が広がっているのが少し窺える。
七尾方ら構内を俯瞰して。
ここにもう一線あったのではないか。左下は本来のホーム終端だろうか。
この川には橋台がもう一線分ある感じだった。この駅の歴史はどんなだろう。
待合室出入口。
待合室内にて。
ちょっと荒れていたが、それほどでもなかった。
券売機コーナー。
駅を出ての光景。
ホーム1つのこの駅は やはりたいそうなものではなく集落型の駅で、駅前広場もないような駅だった。駅舎も新建材の四角い簡単なのが置いてあるだけだ。ところで羽咋から七尾は能登半島を横断するが、ここだけ山が途切れているため、三角線のように本来半島を横断するにあたって必要なはずの山越えをしなくて済み、ほぼ平地を進むだけすむようになっている。このあたりの地形の特徴だそうだ。そういうわけで、能登半島の中ほどを横断中にもかかわらず、山といえば駅の裏手に沿わせているだけですんでいる。
表側はここまでの車窓からも開けているはずだが、この駅においては広がりは無に等しく、集落がどんと目前に迫っていた。
ともかく今後七尾に出るまで、列車は山越えなしの気楽な調子で居られるのだ。そういうわけで七尾線もおもしろくないのかもしれない。
駅の裏手に木々に深く隠されながらも主要道が走っているらしく、走行音が確かに聞こえてくる。しかし駅前からどう行けばいいのかわからず、裏手には出なかった。
千路駅駅舎。
駅を前にして左手の道。
川の橋台と民家の甍を使った祠。
ある道に入って。トタン屋根の千路郵便局があった。
駅を左手にして。広い道はどこにもない。
駅前商店。
ホーロー看板。
駅脇の駐輪所にて。
駐輪所から見た商店。
便所付き駅舎だった。
駅舎前。
集落型の駅ながら、もう今の時代ならこういう駅前にあってはほとんど廃商店になっている木造の個人店舗が、今もいろいろ品書きや商品を並べて営業中で、あとあと、ありがたい気持ちが沁み渡った。店舗は少し脇に入ったところにあるので駅前はさっそく、見ず知らずの人の家々が立ち並び、駅から離れる自分の足音が耳に入るほど静かである。国鉄線の駅に降り立ち、駅から出て、民家を縫っていく道のあるのを見つめると、ぽかんとした気持ちになる。あるお宅では電気屋が来ていて、玄関を開けたまま工事してもらっていた。どこにでもあるようなところだったが、季節柄、最も花が豊かで、別のお宅では藤の花が貴く垂れさがっている。個人宅に藤というのはあまりないから、ちょっと興味を引かれて見つめていると、蜂が襲ってきた。藤といえば蜂だ…。ここの家の人はどうしているのだろう。もう他人の家の花々を見るのはやめて駅に戻り、駅舎の待合室で休んだ。駅の裏手の主要道しもう少し町っぽいのだろうか。
駅前の道を進んで。
とある通り。
駅への道から見た千路駅。こんな立地。
梅迫駅、新平野駅もこれと同じ様式となっている。(新平野は降りたことがあった。)
待合室は土足のフローリングで、少し砂が上がっている。平らな椅子が壁に廻しつけてあり、靴を脱ぎ足を延ばして休憩できた。これまでの下車でちょっと、疲れた。警察官立寄所とあり、やっぱり居心地良いから溜まりやすいのかななどと思う。
上り列車が入って来るのを、待合室の窓から足を伸ばしながら見つめていた。列車が去りゆくとき、車掌と目がぱっちり合った。車掌はホームを最後まで確認しつつ構内を抜けることになっているので、なんで待合室なんか覗くんだろう、と、目が合ってしまっただけに気になった。待合室が正常な状態を保っているか、いつもあのように確認しているだけなのかもしれないが、もしあの車掌の列車に今日これまでに乗っていたのなら、彼は、あれ、あの変な人こんなところにいる、なんて思ったかもしれない。ちなみにその列車は七尾折り返しでないので、私が千路で降りたことは知らないだろう。しかし、とかく七鉄の車掌は前回もそうだったが特に何か引っかかるところがあるのだった。でも考えればお付き合いもあと少しとなってしまっていた。時刻は15時を回り、列車はほぼ1時間に1本。折り返し乗車せず、そのまま一駅ずつ降りる。
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