藤井駅
(小浜線・ふじい) 2007年6月
三方湖に面した平地ある三方から、山地に挟まれた田圃ばかりの沖積平野を十村まで詰めて行く途中に、後年になって駅ができたところで、何げない夏山の山容は、さっきの十村と変わらないものだったが、この猛暑さえなければ、ここは平野の広がりがたいへん気持ちよくて、それで山もいっそうすがすがしく見えた。沈降海岸の陰影が吹き飛ぶようだ。若狭にもこんなところがあったかと思わせる。
しかしこれだけ田圃ばかりなのは、やはり氾濫などがあったのだろう。藤井の集落をはじめ、たいていは山裾の少しだけ高いところに位置している。この駅に下車すると、その集落の一つに出合えるというわけだった。ホームと待合室だけで、ほかの駅と違うところがないという意識が地の人にもあるのか、待合所は虹や野鳥を描いていて、形そのものは無機質ながら、少し心が和んだ。
三方方面を望む。あの中央の山より手前に三方の街があり、ここからでもその町の様子を望むことができる。
十村・小浜方。
左の尾根にちょっと突き出している山はレインボーラインの通っている梅丈岳? (ばいじょうだけ)(398m).
待合室前。
嵩上げによる段差。雨水はどうもないのかな。
鳥の絵がとても多かった。なかなかいいものだ。
木が意外に立体的。
こんがり色の駅名標。
つつじが咲いているが、夏の暑さだ。
駅裏の様子。
駅出口。
ちょっと変わった山容だなと思った。
線内の停車位置表示はこんな様式が多い。
右手階段駅出入口。
藤井駅。
藤井駅遠景。
この駅に降りたとき、一人のお婆さんと一緒だったが、その人は列車がワンマンなものの後ろのドアから降りていった。運転士は、あれ…地元の人で年配の人だから降り方は知っているはずだが…という表情をしている。その人はホームの切符箱に投げ込んで、白昼の集落へと消えていった。後ろのドアの方がホームの出口に近かったし、いつものことで改札を受けるのが面倒になったのかもしれない。私は十村で買った切符を手渡した。ドアの前で待っていると、あ、横のボタン押してください、と運転士に言われた。
そうしてこの駅に降りて、ほどなくすると困惑したものだ。風景は目を瞠ったものの、夏に下駄を履かされている可能性もあって、またもや何でもないものを尊んで冷笑されているのではないかと思えたし、それ以外のに目を留めると、コイン精米機と田んぼと山と、田舎家しかなく、あとはひたすら日射が顔を灼いていくばかりなのだ。眩しくてものを見るのにも手で庇を作らないといけない。さいわい、数十分後に小浜方面が来るのでいいものの、そうでもなければ暇すぎて暑すぎて頭がどうにかなりそうだった、飲み物も買えないし、横にもなれないし。残念ながら、そんなことばかりを考えざるを得ない。何かあるはずだと言い聞かせてみても、足が疲れを感じはじめたのか、歩く気も起きず。妙なところで降りてしまったもんだ、と思うも、「そうだこれを休憩の時間にしよう」と、待合室に籠って、足を休めた。もともと十村から歩いて来ようと思っていたのだが、ちょうど電車があったので乗って来たのだった。だからさっきの十村からは歩けない距離ではない。似たような風景なのに決まっている。
待合室の低い天井を見上げる。あたりはいろいろと描かれていて、存外 違う風景の中に身を置いている気になれた。力んでいない壁画に、こんな効能があったかと感心させられた。それにしても暑くて疲れたな。次は大鳥羽か。景色が変化するといいな、と旅らしい期待を抱いたが、実現は淡そうだった。ひと駅ひと駅見て、徒歩のように旅は進んでいる。
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