笠岡駅
(山陽本線・かさおか) 2011年5月
里庄からほどなくして海の感じられる大きな街が見えるようになってきた。ここが笠岡である。倉敷と福山の間の重要都市で、旅人にとっても少し安心できる市街だ。尤も、都市らしいサービスを得ようと思うと、福山を待たないといけないが、福山も最近はどうかな…ともんく、ここは駅に人がゼロになるようなこともないし、駅の図体もむかしらしい大きさを保っている。
笠岡のいいところは、やはり海が感じられるところ。直接、明白には見えないけど、島っぽい山のかたちや潮風、そして海側に開けた平らな土地から、はっきりとそれを感ぜられるのだ。
そして地名も詩的。私は笠の付く地名が好きだし、だいたいいいところが多い気がする。笠間(加賀)、笠取(綴喜)、笠置(相楽)、上笠(上笠)、笠島(越後)…
気温が高くて男性の日傘が話題だけど、笠をかぶればいいんじゃないか? 両手も開くし、涼しい。ベトナムみたいだけど…
そして何よりも笠岡諸島。今も有人島は多く、塩飽諸島(瀬戸内海線)ほど有名でないだけに、不思議な気がする。
とにかくホームの端まで行けば潮風を味わえて、僕は早くも有頂天になったわけだ。長らく山里を縫っていたわけだからね。しかし笠岡にはそのせいで、艱難の歴史が生まれたのだという。
涼やかな日陰の改札口から、コンクリートのぽっかりした中に入るとサイクリストや老客が"風待ち"している。周りには有名チェーンのコンビニはなく、代わりにハートインみたいな鉄道系の店が入っていて、大手資本に対する防衛? にも取れて、地方色を感じられた。
オレンジの笠岡駅の表示を目に焼き付けつつ、駅前を歩いた。サイクリストや旅人もいて、やはり笠岡はそういうところでもあるんだなと思う。けれど駅前町は海が感じられない、はて? と思っていると、こちらは山側なのだ。何か閉じられたようなものを感じたのだった。
もうお昼過ぎなので何か食いたくて仕方なかったが、訪れる予定の駅と街からして、また今回もコンビニになりそうだなとおもいつつ、初夏の暑い笠岡の街を歩いていた。
笠岡はやはり地方色の残っている市街で、カブトガニの化石でも有名だ。
ここでの時間は60分ほどしかなく、海側は諦めていたけど、笠岡諸島入口の文字にひかれてしまい、超早歩きで行ってみることにした。
案内板通りに進むと、路地裏のようなところを通される。案内板が古かったり少なかったりしたら、たいそう不安になっていたところだった。
時間が全然ない。けれど歩いていくにつれて、日の光に照らされた潮の香りが濃くなる。ドキドキしながら人気のない道を進むと、三洋汽船の乗り場が。こんなところから離島に行けるのかと知って、僕はびっくりした。
海が狭いけど、これは大規模な笠岡干拓の結果である。風待ちで栄えた後、何か事業をしようにも土地がなかったからだそうな。
今船が着くみたいで、市街で買い物を済ませた顔の濃い人たちが待合室で談笑していた。しかし考えてみると、いったい何代くらい続いているんだろうかと。こういう離島や四国の離れたところには、生粋の日本人が住んでいそうである。
長袖を着ていたせいで暑かったが急いで駅へと戻った。ちょうど福山方面行の列車が着くぐらいだ。街を去るときはいつも思う。「今度来たときはもっとゆっくりと…食事もして…」