木ノ本駅

(北陸本線・きのもと) 2006年6月

  余呉駅から3両編成の419系に乗り込んだ。デッキを経て客室に入ると、すぐ脇にある古めかしい冷房装置からは送風音が響き渡り、車内の冷房がよく効いていた。ゆっくり涼む間もなく、余呉からひと駅の木ノ本駅構内に入線、窓から見えたホームには、半袖の高校生が大勢待っていた。デッキに出て待っていると、完全停車。ドア越しにホームの喧騒が聞こえている。ゴトン、と折り戸が開き、ステップを踏んでホームに降り立ったが、その瞬間、猛烈な暑気が襲いかかってきた。振り返ると、ホームにいた高校生たちはさっそく狭い戸口のステップを上って、次々と列車に乗り込み始め、改札口から続々と出てくる旅客が、さらにその列をつないでいた。改札口では下車客の改札もしていたから、駅員もたいへんで、かなり盛況だった。
  もう出発時間が迫っているのだろう、車掌はホイッスルを吹かしているが、高校生はそれを気にすることなく乗り込みを続けている。やがてデッキには人があふれ始め、旅客の乗り込みは滞りがちになり、もう我慢できないぞとばかりに車掌が、甲高く鋭い尻上がりのホイッスルを2度吹かした。最後の最後には1人の高校生が戸口から出たり入ったりするぐらいで、デッキはかなり混んでいたようだ。結局その最後の人が、乗車をあきらめて駅舎内へと戻っていくことで、扉は閉じられ、列車は出発。まだ、かさ上げされていない古い縁石のホームを、しだいに速度を上げて離れていった。ところで、混んでいるといってもたいていはデッキだけで、車内の通路はあいていることが多いこともあった。

  木ノ本駅に降り立ってすぐ気づいたが、ここでも駅改良工事中だった。新駅舎は今の駅舎より余呉側にできるらしいため、構内の余呉側には立ち入ることができなかった。 ホームへの新しい鉄骨の階段も見えていたから、今使われている木壁の跨線橋も使われなくなるようだ。

上屋から吊られた電照式国鉄駅名標とその下にあるホームに立てられた2つの時刻表。右手奥には階段上り口。 2・3番線ホームの時刻表付近を駅舎と反対側に見て。

階段の半ばからホームを見下ろして。左手に二線の線路内、右手にすっきりとしたホーム。 跨線橋の階段から見た2・3番線ホーム。

薄いグレーに塗られた木造の跨線橋。 階段を降りて振り返って。一部木造の跨線橋だった。

上屋下から、向かいのホームの跨線橋下り口を見て。 ホームから1番線階段上り口を見て。

向かいのホームの上屋から、こちら側に向けて吊られた横長の看板。 1番線ホーム中ほど。「SL北びわこ号」の宣伝がされていた。

  ホーローの駅名標、国鉄様式の電照式時刻表、開業当時からのものであるらしいホーム縁石など、国鉄時代の要素がたくさん残っている木ノ本駅は、SLびわこ号の発着駅でもある。こんな雰囲気なら、きっとさまになるだろうと思えるものだった。

古ぼけたコンクリート造りの待合室入口のある面。 2・3番線ホームの待合室前。

白塗りの待合室内。サッシの窓も多く明るい。 待合室内。木製の椅子のある、きれいに清掃された室内だった。

待合室から出て。すでに上屋は抜けている。左に待合室側面、右手に一線の線路内。 待合室を経てホーム端へ。

横長の立て看板。上半分は水色、下半分は青色で、それぞれ白い字で文句が書かれている。 右脇にあった直流化の宣伝立て看板。 直流化は3か月後に迫っていた。

ホームの低い松と駅名標を斜めに見て。 松と石の庭のあるホーム端付近。

左手に二線の線路内、右手に松のあるホーム。 2番線から高月・長浜方面を望む。

駅舎入口のある軒下の風景。 2番線より駅舎を正面に見て。すすけた紅色の瓦葺が重々しい。

軒下を斜めに見て。 トイレは駅舎を出て左手と案内されていた。

国鉄サイズの電照式駅名表のある軒下。 駅舎の左手のようす。

上屋から吊られたJR様式の電照式駅名標とその下にホームに立つ2つの駅名標。 2・3番線ホームの時刻表付近を駅舎側に見て。 こちらはJR西日本様式の電照式駅名標。

手前に上屋から吊られた四角い時計、その奥に階段。 階段上り口。

階段上り口の脇には紺地に白い数字が書かれたホーローが吊られている。 番線案内札は紺地のホーロー。

跨線橋階段側面に貼られたホーローの駅名標。

地面はアスファルト、ほかは白色の跨線橋内。 跨線橋内。列車到着前になると涼を求めて高校生たちがたむろしていた。

上屋の屋根と線路内。 跨線橋から高月・長浜方面を望む。 反対側は工事中だったため、眺められなかった。

隣の2・3番線ホームを正面に見て。 1番線から見た2・3番線ホームの風景。

柱に取り付けられたホーロー看板。 「敦賀・福井方面」の表示は、ここが北陸本線上であることを思い出させる。

  駅舎内に入ったが、改札の窓口はすでに閉じられていて、改札業務はなされていなかった。先ほどの列車到着時は確かに改札をしていたから、ここは改札口を封鎖しない列車別改札になっているのかもしれない。

白塗りの駅舎内。有人改札のみの改札口と斜めにカットされた出札口を見て。 駅舎内に入って。改札口を望む。

白壁で高い天井の待合室部分。突き当たりの壁に沿って自販機、物産陳列ショーケースが設置され、その前に青色の個人掛けの椅子が並んでいる。 上の写真のほぼ背後の風景。自販機と物産陳列所が設置されていた。

壁には大型のポスターが貼られ、壁の前にはパンフレット棚が置かれた光景。 待合室のホーム側のようす。ホームへの入口があるが、パンフレットの棚で封鎖されている。

斜めにカットされた有人出札口とその右隣の自動券売機。 待合室の椅子付近から見た出札口。 緑色の「きっぷうりば」の表示がわざわざ電照式になっている。

格子の浮き彫りが入った白い天井。 こんなふうに待合室の部分は天井が少し高い。

  駅舎内が特に良かった。白い木壁、待合室の天井は高く、これだけで蒸し暑いこの日は気持ちが良かった。また、自動販売機や物産陳列棚など、光による演出があり、駅舎内らしい小物も充実していて、駅員のいる、古いタイプの駅舎の良さがそのまま残っていた。 一方で天井などを見ると、駅舎内はかつては今と違う使い方をされていたらしく、すでに昔とは違っていることもわかった。

ステンレスの低い柵と低い壁で作られた簡単な改札口。右手には窓口。 クリーム色の小ぶりな入鋏印字装置。 改札口のようす。入鋏印字装置のみ設置されている。

駅舎の隅を見て。左手に出札口、奥に窓。 改札口から見た出札口。

駅舎入口の間口上には天然の大きな木板に木ノ本駅と書かれた看板が設置されている。 駅舎を出て。

黒色の背の高い街灯が立ち並ぶ小さなロータリー。 駅から出て右手の風景。

古いコンクリートでできた四角い建物。一階部はガレージになっている。 正面にあった伊香交通の建物。タクシーの小さな基地にもなっているようだ。

細長い緑地帯をもつロータリー。向こう側には3軒ほどの建物が立ち並んでいる。 駅から出て左手の風景。 ロータリー中心部にはちょうどの時刻になると音楽が流れる仕掛けの時計が設置されていた。

  6月も終わろうとするこの日の外は、涼しげな駅舎内とは対照的で、ものすごい暑気と湿度。少しいるだけで頭がぼーっとして息苦しくなるぐらいだった。駅のすぐ前には、新しく整備しなおされたロータリーがあり、形の凝らされた緑地帯や時計塔が、駅前をかわいらしくまとめていた。転回場は新しかったが、目の前の建物の並びには、古くからの建物が多く、それだけを見ていると整備される前の雰囲気がなんとなくわかる気がした。 昔から駅前として栄えてきたのだろう。

小さな三角屋根をもつ歩道上のアーケード。 左手には三角屋根のタクシーのりば。

色のはげかかったフェンスで囲われた何らかの装置。 タクシーのりば左脇の駅構内にあった地震検知装置。 いたずらすると列車が止まると書いてあった。

漆喰の壁と木柱でできた新しい建物。 タクシー乗り場を抜けて。左にトイレ、奥に観光案内所。 門前町と宿場町を意識した造りになっていた。

  観光案内所の近くに、売上金の一部が直流化事業に充てられるという自販機があった。 売っているのは木之本町特産品「三献の茶」で、これは買って飲みたい、と思ったが、 販売中止となっていた。もう直流化も目前だからとうに停止されたのかなと思う。

エメラルドグリーン色の自動販売機。わずかな種類の缶が幾つかずつ並べられている。 「三献の茶」の自販機。

横に長い妻面を持つ駐輪所。1階部にはたくさんの自転車が停まっているのがよく見える。 観光案内所は駐輪所の建物の一部であった。 右手が建築中の新駅舎。

古い家の並ぶ細い脇道。 ふと脇道に入って。

駅舎前からタクシー乗り場にかけては道幅が広げられている。
ロータリー中心部から駅舎のすぐ前のようすを見て。

複雑な緑地帯をもつロータリー。 上の写真左手のようす。このロータリーは主要な道から脇に入った所にあるようだ。

白い壁と紅色の瓦葺の駅舎。 木ノ本駅駅舎。

青と白の幟と駅舎。 北國街道木之本宿の幟と駅舎。幟が暑い風にはためいていた。

左手にロータリーの始まり。右手に葉の茂る木。 国道付近からロータリーを望む。

手前にコーナーの広めの歩道。 ロータリー入口付近。木ノ本駅への案内板が出ていた。

  木ノ本駅前のロータリーと接しているこの道は国道365号にもなっているのだが、北国街道というわけではないらしい。というのもこれは宿場町木之本を通る北国街道の一部が、国道の指定を外され、こっちに迂回して来ただけのものらしいのだった。駅前に北國街道の幟がはためいたように、ここ木之本の観光の目玉はその宿場町、街道歩き。敦賀を経由せずに今庄に出るルートとなっていて、有名だ。冬は、ここ木之本は福井県境の山を越えてはじめにある平地の街のためか、ゲリラ豪雪に見舞われることが多々ある。そのため木之本まで行かねばならないと冬に聞くと、樹氷風の木々を想起したり、また、その方の身を案じてしまったりする。情緒豊かな宿場の感じだ。
  けれども今は夏。どの木々も緑が盛っていて、木造の家々は風通しをよくしようと必死に呼吸しているように思われる。

右手に小さな横断歩道、コーナーの幅広の歩道部、少し遠くに踏切。看板や建物の色で色とりどり。 ロータリーを右手にして国道の横切る踏切を望む。 少し離れた所には平和堂があった。

  駅舎に戻ろうと思ったが、お昼なのに高校生が多く、駅舎内は彼らに占領されてしまった。入りにくくなった私は、外で列車を待つことにしたが、できるだけ日陰を選んでも、待つのはひと苦労だった。ふと、駅前の時計塔が真午の1時を打った。激しい暑気の中に流れ込んでくる管弦で頭がぐらぐらした。梅雨明けまで、あと、もう少し。気持ちよく晴れた真夏になったら、遠方に行こう。この先の北陸本線を進み続けて出会える北陸の海を空になぞらえるには、まだ難しい、真っ白で明るい沈痛な空だった。

湖北1 : おわり