虎杖浜駅
(室蘭本線・こじょうはま) 2010年9月
幌別を出たときはお昼の光だったのに、さして離れていない虎杖浜に着くともう夕方の雰囲気だ。蘭法華岬を東に抜けたので、登別市街に出た気分が強かったが、さらにもひとつ岬越えて、ここは白老圏内である。 足の着いたホームの土は厚く硬い縁石にとどめられ、また今日も一日が終わったかと夕日を浴びる。駅舎はこの辺の無人の量産型のもので、見るべきはないが、もしそうするとしたら、自分自身そのものだった。とりあえず予定通り夕刻に虎杖浜に来られた、そして温泉に入れる、ということだけだろう。ここにはその施設が二つ三つあり、食事にありつける可能性も高かった。
駅舎の中はばあちゃんの家と化している。各駅で散見されるこの傾向は研究が待たれるが、おそらく地元の婦人会などが各家にあるいまいちでいらないテーブルクロスとか座布団、花瓶などを持ち寄って完成されるのであり(わざわざ買わないだろうということ)、よってそこには妙にいろんな傾向が混淆しうるのである。もっとも70年代来の日本の家の中そのものは雑多というのものであろう。近年はようやく洗練に向かっていると言うのは間違いないかと思う。なぜって、それはかつてもっとシンプルなものが欲しくても、手に入らなかったからだ。なにかと柄物や妙なデザインが付いて回る。その道に至るのに90年代というシティ、メタルなデザインを経る必要があったのは不思議だ。 とはいえ無人駅がこんなふうにいろいろと人の気配を感じさせるのはありがたいことだった。ゆえに私は今夜、これと同型の駅でとんでもない目に遭うとはしるよしもなかった。
当面時間を気にする必要もないし、のんびり歩く。道はやけに広く住宅街だが、国道の控えているのがわかる。北海道らしい箱っぽい民家に混じってぽつんと鮮魚店があり、国道に出ればほかにも店がある期待が高まった。
やはり室蘭、登別、白老、苫小牧と続く線は活況が見られうるようで、ふいに対照的な長万部の廃ドライブイン街を思い出す。沿道はまばらだけどラーメンやカニを食わせる店のほか、コンビニもあり、旅人が困り果てるということはないところとなっている。温泉もあるので、以前から鉄道遊子はこの駅を利用したという。駅自体には何もないけれど。
夕暮れの中そういう風景を見つつ、4車線の国道を走る車の風に吹かれながら歩道を歩くのはほっとするものだった。温泉は花の湯かぬくもりの湯か迷っていて、いったん花の湯の方へ行った。駅から近いのはそちらなのでよく知られている。しかしここは途轍もなく悲痛な事件があったのだ。やはりつらくて、心の中で合掌しつつ、踵を返しぬくもりの湯の方へ向かった。