巻向駅  - 桜の桜井線・和歌山線紀行 -

(桜井線・まきむく) 2007年4月

  巻向駅に着くと、件のおしゃべりのおばあさんも降りるようだ。
「柳本から。」
 と運転士に申告した。
「えっ? あっ、はい。」
 やはり曇った反応を返す運転士。
「故障しとったんや、券売機。」
「あっ、そうですか。」
 今度は驚きとすまなさが混じっていた。 桜井線はワンマン運転だが このときは整理券は発行していなかったのだ。 もう一人60代ぐらいの女性が降りて、この人は青春18きっぷだった。 この駅には山の辺の道が近く、そこを歩きに来たのだろう。 こうして列車から出たのは私以外に二人だが、あっという間に町中へ消えていった。 あたりは田んぼと細道がつなぐ住宅街で長柄駅前と同じたぐいだが、 こっちのほうが静かで、集落の深入りだった。

  柳本からここに来ると列車の降り口は駅舎に近い方になっていて、駅の出口がすぐそこだった。列車と人が去ったあと、ひとりホームへ戻る。するとそこは、枝木が華やかに満開のプラットホームだった。

桜が右脇に咲くホーム。その向こうに畑・民家。 天理方面を望む。

ホーム脇の大きな桜。 ここもちょうど満開。

JRサイズの駅名標と桜。 駅名標と共に。

広がる畑、ところどころビニールハウス。 ホームから天理方面に見て。 畑の向こうに団地が見える。

鉄板製のためぼろぼろになり、ほとんど黒い字が見えなくなった白い名所案内。 名所案内。

  ホームにある名所案内はぼろぼろに錆びて、黒い字もすっかり薄れていた。なんとか解読すると、纏向 (まきむく) 遺跡、箸墓 (はしはか) 古墳、珠城山古墳群 (史跡推定) 、兵主 (ひょうず) 神社、山の辺の道、が案内されている。このあたり一帯は纏向遺跡になっていて、古墳がごろごろある。そもそも奈良盆地のそこかしこに古墳や遺跡がころがっているのだから、小高い丘の小さな杜はたいてい古墳だったりするのだろう。

開放式の待合所。コンクリートブロック積みで寒々としている。 ブロック積みの待合所。 長柄と違って上屋がホーム端まで延ばされていない。

桜と駅名標。奥に錆びたトタンの壁の家。 二つ目の駅名標。

  桜の木々に見とれながらホームの端まで歩くと、その付近の路盤に金属突起が大量についた鋼板が置かれているのを見つけ、一気に醒めた。線路の向こうに線路内立入禁止の看板が立っていたから、これを防ぐためだろうと思ったが、この障害物は中途半端なものではなく本格的なもので、かつてここを渡ることで重大な事故が起きたのだろうかと考えたりした。 しかしこれでは丈夫な靴を履いた保線係もレールの上を歩くしかなさそうだ。

ホームの端は囲うようにして板の柵がしてあり、上部には高くまで有刺鉄線が巻かれている。 ホームの天理方面の端。 柵の上にはしつこく有刺鉄線が巻かれている。 隣家侵入を防止するためだろうか。

黄色の厚い鋼板。 ホームの端あたりの路盤にあった、金属突起を大量につけた鋼板。

金属のずぶとい突起。  

両脇に少し余裕を持たせて単線が民家をまっすぐ走り抜いている。 ホーム端から見た天理方面。 ほぼまっすぐだ。

畑。遠くにちらほら民家。ずっと遠くに低い山地。 ホームの反対側には畑が広がる。 沿線の風景にはビニールハウスがよく目に付いた。

長く延びるホーム。 桜井方面を望む。カーブで駅舎が見えなくなっている。

ホームの先に小さな駅舎が見え始めた。 ホーム中ほどから桜井方面を見て。

  ホームの端にすると、突然ポニーテールの少女がすたすたとホームの中ほどまで歩いてきて、天理方面にシャッターを切り、そしてわき目も振らず走って戻っていった。はじめは旅行中かと思ったが、どうも地元の人で桜の写真を撮りに来たようだった。自分が居なければ、あの少女はもっとここにいただろうか。桜を見たいというだけでホームにやってきたらしかったのが、清新だった。

駅舎、踏み切り、線路内を少し離れて見て。 駅舎へ歩いて。桜井方面の2両目がこのあたりに来る。

陸屋根の駅舎。 簡易駅舎の裏にトイレが併設されていた。

軒下には一人掛けの椅子が連なっている。 コンクリート積みだった。

改札機器と券売機。 駅舎内の風景。

  駅舎は開放式で、扉などは一切なかった。かつてはこの駅舎の中に有人出札口があり、 切符を売っていたが、今は改札機器が無言で立ち尽くしているだけである。券売機の側面が黒く焦げていた。しかし長椅子には厚手の編み物が敷かれてしたり、配布用に刷られた新ダイヤの時刻表が置かれていたりとできるなりに管理されているといった感じだった。

陸屋根が左に長いコンクリートの駅舎。 巻向駅駅舎。

踏み切りの向こうに畑。 生駒方面を望む。盆地が広がっていく側。

細道。古い住宅が迫っている。 反対側、山側の風景。

  交通量が少なく、落ち着く駅前だった。集落の中ほどにあるらしい。細道は砂色に舗装されていて、地元の人以外がここへ歩きに来ることを物語っていた。
  すぐ近くに酒屋があったのだが、その名前が「島岡駅前酒店」となっていて、この駅は以前島岡駅だったのか、と驚いたが、島岡が個人の名前だと気付くのにちょっと時間がかかっただけのことだった。

縦型の電照式看板。 島岡駅前酒店。巻向駅前酒店?

かなり小さな道角。右の角に酒屋。 駅方向に振り返って。右手に酒屋。

一車線程度の道。住宅が並んでいるが、少し開放的な感じ。 T字路の先の道。天理の方角。

  砂色の道を歩きながらさっきの少女の影をもとめた。だがやはりいなかった。路地が人を吸収しやすい気がした。
  雲で光も少なく、わずかに寂しさを感じながらも、私は再び列車を、とホームで待っていると実に寒くなってきて、再び手袋をはめ直して手を温めた。

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