緑駅
(釧網本線・みどり) 2010年9月
朝は早く起きた。まだ寝ていてもいい時間だが、外が灰色にすっかり明るい。小雨になっていたが、けっして完全にはやむことはないような降り方であった。暇に飽かして駅ノートを読むと、知らない単行者同士が雨の中駅舎で列車を待っていだが、うち一人が電源コードを堂々と使ってパソコンしていることに対し一方が苦言を申している内容が見つかる。男性が無口にウェブサイトを閲覧していたのに対し女性が苦言を呈したのが思い浮かぶようだった。 私は、こんなことしてても何の解決にもならない、と、ため息とともにノートを閉じ、外に出る。
おもしろいのはやはり、みどり、という名だけあって駅前や町の歩道に緑のペンキを塗りたくっているところ。やはりそうしたくなるかという感じ。我々はこういう根拠ある設計、装飾、命名をしてしまうことに対し、たいへん弱いな。もちろん集落内のほんとうにきれいな木々や芝生と調和していてわるくはなかった。ちなみに駅名表示も緑色でみどり、となっていた。あくまで、何かしようという際にも、根拠がなければできないのか、或いは根拠のなさそうな表現は理解を拒むのかという私の個人的な悩みが少し頭を擡げただけだ。
こうして辺りは妙にきれいに整備されていて、コテージ風の建物があったり、パターゴルフの芝生が眩しい。しかし昨夜同様、人の気配がまったくない。ホームから小さなスキー場が見えたので、例の湯と合わせて清里町の観光戦略なのかもしれない。
このあたりの街道の集落は長い無人地帯を挟んでは群れて現れ、そして消えるというもので、小さくても貴重な中継ぎ地だと思う。
さて、ずっと気になっていたのだが、これからこの駅始発の列車に乗るというのに、今も列車がない…つまりここは夜間滞泊などなく、知床斜里あたりからここまて回送して営業をはじめるようだ。滞泊がないのは駅舎を見てだいたい想像はついていたけど…。しかし北海道のことだからこんな駅でも駅務室を改装していて、運転士が一晩寝そうな気もした。それに乗り場は折り返し設備として再整備されているからね。
列車は発車の20分前位から入ってきた。天気もすぐれないし、私はさっさと気動車に乗ってしまう。しかし運転士は別に怪しむこともなく、この列車は6時51分発網走方面、留辺蘂行きですの放送をこなし、しゃなりしゃなりと始発営業の準備をあれやこれやしていた。こういう疑わないところはいいな。あまり気にしない気質でもある。北海道は妙な行程の旅行者も少なくないから、もう慣れっこなのかもしれない。
客は発車前に一人あった。時間を読んでいて、地の人だ。
こうして意外にもスムーズに私は緑駅を発っただけに惜しいものがあった。