西条駅
(山陽本線・さいじょう) 2011年5月
西高屋の次は西条とわりと大きな駅がつづく上に、時間もそんなに取っていないからなんか体力勝負みたいになっていた(40分ないくらい)。中国地方の都たる広島ともなると、そこにつらなる街もなかなか大きいなという印象。それ以前に東広島というよくわからない地域だけど、ここはその中心地でもある。旗艦駅にふさわしい旧国鉄の石積みのホームがまっすぐ伸びて、民間の広告が並んでいる。改札も賑やかで、駅ビルではないけど、民衆駅だった。
白市寄りには5線、6線と見えて、ヤードとなっている模様。広島は内陸部の、商都の駅なのが想われた。
さっきの構内踏切もそうだと思われます
プラットホームは長大だった。天気も良くて、うっすらと額が濡れてくる。急に現れた大きな都を、方向もわからないまま一人で歩いているような気分だけど、まだ駅構内でしかないのを想うとな、なにかこの山陽の旅は気が遠くなるようだった。向うにはちょっおもしろそうな陸橋が見えている。あれに上ったらまた俯瞰できるだろう、そんなことを思ってしまうのだ。
石州瓦の寺院とは…
裏手は静かな畑の唄をうたっている。石州瓦の寺院が印象に残ったけど、こんなに鉄道線と近くて、どんな歴史なのだろうと思いをはせる。用地買収の難を逃れたのだろうか、とか。表側が激しい誇りを抱くなら、裏手は癒しであってほしい。それはまぁ、実は鉄道旅行者だけの勝手な想い、とばかりはいえないところがある…表と裏って、いいものだと思う。それは平面でありながら立体だから。
駅舎の中は東日本大震災での自粛節電のせいでやたら暗かった。こんなところにまで暗い影を落としていると、報道や東北からどれだけ離れても何か付きまとってくるようで、気が重い。そのいっぽう疎開してきた人は、被災地と同じ感情を共有しようとしているようでうれしかった、とも紙面にはあった。けれどそれも強制された謝意かもしれない。僕なら申し訳なさ過ぎてまいっているだろう。
この哀悼の慫慂は、無能な権力者ほの批判をかわしているみたいで釈然としなかった。いや、いいんだ、こういうときはあまり考えず、ええっ、てやんでぇ、うっとおしくてたまらねぇ、っていいながら、昼っぱらから近くの飲み屋に入って酒をがぶ飲みすればいいのだ。
それに、僕は真実を写しにきているのだし、別に何を遠慮する必要もない。自分の心にも、自分の旅行スタイルにも。むしろこの節電で、それは強まったともいえるし、というかそうでもなけりゃこうして出かけてなんかいないだろう。
ちなみに広島は570円
山陽の真っただ中ですね
駅舎から広々と駅前を見下ろさせるその仕掛けは壮麗、といっても過言ではなかった。駅舎は元はかつてのポストモダンの豆腐のようなものだけど、そんなことを思わせないくらいの改装がなされ、なまこ壁にレリーフと創意を凝らしてあり、立ちはだかる石の壁のようなその駅舎はまるで城塞のよう。たぶんこの西条という酒都に誇りをもっている人がいるのだなということが伝わった。
中も、地酒を売るみやげもの屋だけでなく、ガラスを張った回廊をつけてあり、空間的にもおもしろい。そして改めて見下ろしたら、駅前広場の人の歩く路面もすべてなまこ壁の意匠! 公衆電話からトイレから何から何まで…たいていこういう場合、安直になりやすいけど、微妙に工夫が凝らされていて巧みだった。
おまえのところには泊まらねぇよ…(好みじゃない)
ライオンズクラブの時計がかかってます
なんかほんと駅舎が要塞みたい
こちらのレリーフはロータリークラブ
酒造の町とあって、資産家や篤志家が多かったんでしょうか
良いデザインです
トイレもあります
さて、西条は酒造で有名だけどそれは明治以後、かつては四日市とよばれ、西国街道最大の宿場町だったそうな。ちなみに新幹線の東広島駅もあるし、なによりも広島大学はここ西条にある(駅からだいぶ離れてるけど)。これはもう西条は広島はのもうひとつの中心地といってもよさそう。ちなにJRバス西条線が呉駅とを結んでいる。これらのことを考え合わせると、西条駅前にはこうして広々としている必要がある、という訳か。(なお、広島空港は三原市街と西条市街のちょうどあいだくらい。)
この辺になると東京への新幹線宣伝が出てきます
http://www7a.biglobe.ne.jp/~ponn/
街歩きしていると、おもしろそうな古民家にまがまがしい看板が貼り詰めてあるのを発見。なんでも、東広島市の土地区画整理事業で市にずさんな工事で曳家され、伝統的家屋が土台から著しく損傷したという。看板の内容は悲痛である。なるほど…あのヤリ手満々の駅前整備の裏にはこうした強引な手法があったというわけか(まぁ、いかにもありそうだけど…)。結局、最高裁まで争い、2023年現在も係争中。
恨みを買うということはつまり市のやり方は誤っていたわけだ。酒造の周りばかりやたらきれぇに整備してさぁ…伝統建築が多い街なんだから、当建築を生かした整備ができたはずなのに、西条の評判をこうして公衆の面前で落としつづけることになってしまった…あの立派な駅前やレリーフやら飾り時計もむなしいものだ。
こういうときたいがい自治体はヤクザみたいになる
まぁ…田舎にはよくあることです
先述の通り、こかつて四日市と呼ばれた宿場町
ちなみに右手の山から右手はずっと山地で、海側には呉線の安芸津駅があります
日が差して、ほんとに暑くなってきていた。例の建物のいきさつを知ってからというもの、気分が悪かったけど、実はこの立派に改装されてバリアフリーも一部完了した駅舎、建て替えの話が決まっていた。まーた解体後のガレキが出るのかと思うと胸くそ悪かったが、べつに自分の町でもないし、どうでもよい。建て替えの理由? そんなものいくらでもつけられる。ただ、現況なら不自然に映るということだけだ。となるとさっさと離れるだけである。
駅舎の中に入ると、サイクリストのような旅行者が従順に駅員の指示に従っている一方、広大発のバスから急いで降りたある一人の学生が乱雑に改札を通っていった。それで僕は、節電の暗い影を泥だらけの靴で踏みにじって、彼以上に改札のバーを蹴飛ばして列車に乗った。
まぁ、でもほんとはそんなこともしなかった。ムダを避けて改装で凌いだ街があったのを、直接見られ、伝えることができそうだ、そう思っただけだ。