高松駅
(七尾線・たかまつ) 2008年5月
ホームからの風景。
陽光と緑という気だるい車窓を見せる日陰の車内からホームに降り立つと、煌びやかな日射しのもとにまた投げ出されたが、ともかく恐ろしく気持ちのよいところだとすぐわかり、瞠目し、その風景に吸い寄せられた。この駅は七尾線のほかの駅とまったく違っていた。ホームからは丘と丘に挟まれた雄大で緩やかな谷間が見渡せ、新緑はその全面に繊細に点描されて広がり、その上この深い谷に呼応するがごとくしいんと稠密に静かだったのだ。小鳥の声が谷にこだまするかのようにきれいに響いて聞こえてきてもいた。
いったい七尾線とは何者かと思う。海を見せないように半島を進むだけの路線でなかったのか? 胸に心地よいこの緩やかな谷間は何度眺めても飽きない。そしてこんな駅が高松と名付けられていて、それがここの海辺の町ゆえ、よけいに海辺らしい地名に思えた。
実は七尾線の羽咋までのテーマは、丘陵地帯。そのよさがもっともよくここには現れたのだろう。
丘や谷が美しいが、手前はやや荒野気味か。
宇野気・津幡方。左手乗って来た列車。
羽咋・七尾方。
1番線ホーム端の様子。裏が駐輪場になっている。
3番線中ほど羽咋方。乗って来た列車が去って。
羽咋方に駅構内を見て。
こんな離れてちょんと上屋がある。
宇野気方。
垣間見た駅前。
跨線橋内にて。
羽咋方面を望む。進む先にものどかな丘陵地が窺えた。
津幡方面を望む。下方の列車は普通金沢行き。
駅前がちらっと見えた。街の感じがあり期待したのだが…。
1番線ホームの佇まい。
向かい2・3番線ホームの階段直結の上屋。
気持ちの良い駅だった。
津幡方端から羽咋方に駅構内を俯瞰して。
津幡・金沢方面。貨物側線があった。
ホームから見た駅前。
改札口。
跨線橋。日当たりが悪いのだろうか。
駅も造りが中くらいの主要駅風なだけで、客は誰もおらず、二つのホームやべトンの駅舎が不思議に思えたほどだった。しかしだからといってかつては賑わっていた、というようなことは、一切感じさせなかった。駅舎の中に入っても、駅員がいるものの待合はお客用の椅子がおとなしく並んでいる。
駅舎内にて。
これが改札口。
待合の様子。
かなり改造の様子が窺える。
この引き戸からの方が出やすいが閉め切りだ。
こんな駅を擁する街はいったい、と外へ出ると、タクシーの運転主が自分の車をいじっているほかは誰もおらず、だだっ広い広場が、異様なほどきちんと整備されている。しかも全体が緩やかにのぼっている。
知らぬうちに足に忍び込む傾斜で歩きにくさを感じながら、転回場の中央に水色を敷き詰め松を植えた集合広場に入った。大規模に海になぞらえたものだったが、極めて人工的なこと以外で、何かで妙な感じがしていた。周囲に真っ赤な植栽していて、さらにヴィヴィッドの風景になっていたが、これはカナメモチという常緑喬木だそうで、新葉が常にこんなふうに真っ赤なのだそうだ。やがては葉緑素が増えてきて緑色に戻る。そういうわけで、ちょくちょくこの季節に見かけていた、あの奇妙なほど紅葉した植栽はカナメモチだと知るきっかけになった駅前だった。こうして徹底して植え込んだカナメモチは何だか激しい能登を表していそうで、また描いた水辺に配した色の取り合わせからは、能登はこんな趣味なのかと思わせて、やや恐れた。
駅を出て。
この通りは整備から逃れ古いものだった。
自転車置き場。
高松駅駅舎。これが四国の高松駅と紹介したらわからない人もいたりして。
左の建物はトイレ。
繊維とフルーツの里とある。つまり丘陵地形を利用した果樹栽培をやっている。
付近の位置関係。
駅舎前の様子。
こういう窓は今はあまりしないと思う。
駅前広場。
路上から見た高松駅駅舎。背後の新緑がまぶしい。
中央広場にて。
駅を右手にした通り。
至市街地。
不思議な歩きにくさを感じつつも駅から離れて歩いていくと、今度は傾斜がゆるやかに下がりはじめ、それで気付いた。この駅前も丘陵になっている、と。ホームからの風景だけではなかった。もう丘そのものが駅前のように思えるものだった。
それでか。海の模型が変だったのは。丘そのものに海を造ったから。高松の街も、その海辺もここから離れていて、見えない。その海辺へのいざないとして造ったのだろう。何せここは、特にホームからの風景は和歌山線のことを思い出させたほどで、実際果樹多いぐらいのところなのだから。しかしなぜ街を結ぶように鉄道を引かなかったのだろうか
と思ってしまうほど、鉄路は見事に羽咋までの複数の街を外している。
駅ロータリー入口。
高松町民憲章。高松町はもうなくなって、今はかほく市になっている。
近くの寿司屋。
列車の来るころになって肢体を傷めた人や、言語の操れない人をはじめ、客が数人ゆっくりと入って来た。あの広い谷間に浮くような、上りホームのほんの東屋程度の上屋の下まで、おぼつかない足で向かい、その人たちは静かに待つ。鳥の声が響き、風がよく通っていた。市街地から離れ、若やぐ人いそうな海を離れたここは、代わりとして、こんなところでの松が余計に寂しく思える海の箱庭を据え、新緑の丘を配す隠遁的なところで、感情の派手なお見送りも帰省もありえそうにない、静かな心地で自省させるような駅であった。
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