津軽浜名駅
(津軽線・つがるはまな) 2010年9月
津軽今別には前回来たような自由な空気はもうない。予定通り津軽線にのりばに赴いても何も変わらなかった。みんなそっくりそのまま同じことをしているのである。自分の発想が陳腐だったことを嘆きつつ、津軽の農村の風景の中のできるだけつまらない駅に降り立ったが、そんな駅ですら人は少なくなかった。つまりは青函エリアは休日にはとりあえず行くといったところ、という印象を受けた。
もはや終わったなと思いつつ、うすぼんやり散策する。こんな何気ないホームのみの駅で誰やかれやうろうろしていてはさすがに旅行にならない。
やがてある初老に話しかけられた。まともな方にお見えし、彼も落胆しているのかと思いきや、話しはじめると口ぶりがよぼよぼして、一切の感情を配さないところがマニヤな感じだなとうすうす感じていると、延々ときっぷ収集の話をはじめる。曰く、そのために東京から来たのだと。なんでも、別に切符は持っていて、車補がほしくて買うのだが、着駅で降りないとなじってくる、とのこと。私が「覚えているんですね」と応じると、特急券やグリーン券でも同じで、あらかじめ車掌に買う目的を言っておかないと付きまとわれる、などとぼやいていた。そんなまでして使わないものを買うのはわからないのだが、それがマニヤというものなのだろうか。有価証券たる切手の収集なんかより、よほどの鉄道当局への信仰心がないとできなかろう。
とりあえずそんな茶飲み話で鬱屈をしのぎ、適当なところで彼は、じゃ、と別れ、我々は三厩から帰ってきた青森行きの列車に乗った。彼はまた車掌から使わないきっぷをねだっているのだろうかと想うとせつない。
帰りの列車も東京からの単行旅行客人が多く、もはやロングシートとなっては目のやり場がなかった。そんな中でも必死に車窓を眺めんとする彼らは、よほど旅をものにしたいと見える。つまり、この日の津軽には何もなかったと言わざるを得ない。本当に。苦悶しつつ、ようやく青森に着く。