12月に伊勢地方の駅を周って1か月経ち、1月になった。
もうそろそろ、再び行きたくなるころだった。
翌日に予定のない日の夜遅くに、翌朝、出発しようかどうか散々迷い始めた。
「早起きなんてやめて寝ていた方がいいかもしれない。でも行くならあしたぐらいしかないかもしれない。どうしようか。」
………………
『とにかくあしたはどうなるかわからないぞ。』
一応目覚ましだけセットして寝た。
朝5時前。迷ったあげく、なんとか気力を振り絞り、行くことに決めた。
とにかく、前回乗った草津線の列車より一本早い列車に乗ろう、
それだけ決めて、特に綿密な計画も持たずに再び出かけた。
きーんと冷え通った真っ暗の道を自転車で最寄の駅まで走った。
道はまだ真っ暗だが、人々は少しずつ活動し始めており、闇の中にも動静があった。
駅に着くと、やはり通勤通学時間帯のはじめにさしかかっているせいか、
人の細い流れもあり、ホームには割と人も立っていて、
こんな闇でも、朝には変わらない、といったふうに、それぞれ黙々と並び、普通列車を待っていた。
6時40分ごろに草津駅に着いた。 あたりはまだ暗かったが、空の暗さは和らぎ始めていた。 次ぎの草津線は33分後だったこともあってか、 ホームには4,5人ほどが立っているばかりで 入線している列車内にもほとんど人はいなかった。
草津行きの先頭車両。
ホームではやはり自販機の照明が明るい。
動かぬ車窓から駅名表を。
草津駅構内を出た列車は、ゆっくりと高架へ上り詰めて東海道本線を跨いだあと、
盛り土をするすると下って地平へと戻っていった。
車内ではどの人もしっかり防寒したままだから、
急行型の小ぶりなコンパートメントでは隣の人との間が布地で埋められ、
ときおり、もそもそした音を立てた。
窓の外はやはり、まだ青暗いままだが、地平に戻った列車は
人家の裏の並びの脇を走り、ときおり家の中の明かりがひらめく。
明るいキッチンでお母さんが2つの弁当をテーブルの上で入れているのがちらっと見えた。
冬の日の出は遅いけれども、朝の始まる時間は変わらない。
風景は寝静まっているだけに、冬の朝はいつでも早い朝に感じられる。
石部駅を過ぎたあたりで、
一点に凝集されて白くなった光は濃い橙色になって横に広く漂い始め、
砕石したために変わった姿になった山々を黒々とシルエットし始めた。
私の前に座っている厚着をした老婆の顔が寂しい夕暮れ顔に染まった。
草津線のこの列車は、こんな寂しい朝の光の洪水の中、
都市部から離れてどんどん違う方向に人々を運んでいく。
草津駅から26分、貴生川駅に着いた。
ここまで乗ってきた緑と橙の急行型の列車は1番線に停車し、折り返し草津へと向かう。
ところで、次ぎの柘植行きがどこに停車するのかすぐわからず、
ホームに立っている時刻表を見ながらずいぶん考え込んでしまった。
結局、次ぎの列車は34分後とわかり、
結局前回乗った草津線の列車と同じ列車に乗ることになったのだとわかった。
しかし、特にがっかりすることもなく、
やってしまったな、仕方ないな、という程度の気持ちだった。
しかしこれ以後、こんなふうに事前に調べもせず、
遠出をすることはもうないようだ。
次ぎの柘植行きが来るという、向こう側のホームに移ると、
そこは信楽線と3番線のあるホームだった。
そのホームは、降り立ったホームの対角線向こうにあるホームだったため、
信楽線のことには気づかず、移って初めて、おっ、信楽線がある、と気づいた。
3番線・信楽線ホーム。右手が信楽線。
振り返って、1番線ホームを。ここまで乗って来た列車が停車している。
ふと、これから本格的な登山をするような恰好をしたおじさんが現れた。 もうすぐ入線する信楽線の、7時59分貴生川着の列車は、折り返し8時1分貴生川発の列車になるから、 それに乗って登山口の近くまで行くのだろう。 いよいよ2両編成の信楽線が入線し、停車した。 ドアが開くと、多くの人たち一斉に降りてきて、 とめどなく橋上コンコースへの階段へと向かっていった。 しばらくしてから草津・京都行きの停車する1番線を見ると、 草津寄りの端のほうまで人がぱらぱらと広がっていたが、 それはその辺りの車両が草津駅の草津線ホーム跨線橋上り口に近く、 乗り換えがスムーズにできるからなのだろう。
1番線にて草津・京都方面の列車を待つ人々。
到着した信楽高原鉄道。
柘植で慌しく、2分乗換えである亀山行きへの乗換えを済ませ、少し落ち着くと、列車は出発。
前回降り立った加太駅、関駅での停車を経て、亀山へと向かった。
一駅一駅、踏みしめるように降り立ったことのある駅での停車を車窓から見ていると、
列車はみごとに一つの時間の流れに乗っているのだと感じた。
終着亀山駅で降りると、次ぎの紀勢本線である9時25分発まで30分あったから、
ホームの端まで歩いて駅構内を見渡した。
草津線沿線の天気より、少し良い天気でしあったが、やはり雲が多く、
前回来たときと比べれば天気はすっきりしていなかった。
右へカーブする紀勢本線。