EUC-JP to UTF-8 九州都市周遊・大分での投宿

大分での投宿

  大分にも大分駅にも初めて来た。真っ暗だが。駅がけっこう古くさいもので、これはさすがに間もなく建て替えだろうと思いながら、地下道を歩き、広い改札を出た。時刻は23時を過ぎてもうかなり遅いが、改札前や駅前には人がたむろしていた。
  さて今夜の宿は、ほとんど心配ない。大分駅を出てすぐ右手を見よう。ネットカフェがある。大規模なものなので、空きがあるかは悩まずにすんだ。何のためらいもなく、ドアを引いて入る。するとそこは夜も眠らぬ、パソコンをあまた置いた遊興場。とても広いし、人も多く、賑やかだ。
  もしここが駄目だった場合、ここから歩いて十数分の豊の国という健康ランドに行くことにしていた。知らない夜道をそれだけの時間歩くのはその場になって避けたくなる可能性があったから、いざとなればタクシーで飛ばすというつもりをしておくことで、この予定の成立を助けた。

  さっそくカウンターに行くと、初めてのお客様ですか、それともご来店されたことがありますか、と始まり、初めてだと伝えると、ではご説明しますとなって、その店員は本当に長い長い説明を一字一句間違えずに滔々としゃべりはじめる。が、流暢な自分に酔っていて、こっちの目も見ないで上の空、一人でしゃべりまくっていた。会社にとっては完成された人なのだろうかな。そしてその異様な説明を受けている私を、まるで説教を受けている子供を見物するかのように、隣の受付で受付の最中店員が離れたために待たされていた男女が、無遠慮に眺めていた。それだけ異様だったとも考えられたが、眺めている方は方でやはりかなりセンスに欠けているし、相手がわかるわからないはどうでもいいといったふうに説明している店員は店員でこの人大丈夫かと思わせたし、これはあまり、いいところに来なかったな、と、しばし首を傾けて考えた。説明内容は携帯電話のやかましい使用や、ドリンクバーのことなどだったのだと思う。
  でも別に気分を害したというようなことでもなかった。ここはたぶん、こういうところ。それで身分証を出そうとしたら、なんとカード類がごっそりなくて、すられたかと思ってしまって、焦って鞄の中をかき回すと、カードが抜けて散らばっていただけでほっとした。身分証が見当たらないからちょっとカウンターを離れて探す、と言ったときの店員の顔といったら、いままで流暢にしゃべっていた機械仕掛けのホストのような顔が、えっ、と白くなって固まり、口を半開きにしたまま頷くでも頷かないでもないように首を揺らした。たぶん、流れ作業が滞ってしまったので、どう客を捌いたらいいか戸惑ってしまったのかもしれない。ちょっと申し訳ないことしたかなと思った。
  身分証の住所を見ても、店員はほとんど驚かず、無事カードができた。ここは忙しいところだから機械のように処理したということもあるし、都市だから遠来の客にも慣れていたようでもあった。
  料金プランの話になって、ナイトパックをお願いしたら、通常料金のパックの方が安いこともあることを店員は説明し、どちらにされますかと決定を投げるので、表を見てみるとあの海千山千の店員もどちらを推したらいいか迷っているほどの僅差で、私はもう早くカウンターを離れたい思いから、わずかに高くなる通常の6時間パックを希望。座席は横になれるのがよかったのに、気が急いだがため、ビジネスブースみたいなところを選んでしまって最悪だ。

  個室番号を教えてもらい、ようやっとの思いでカウンターを離れた。そのとき、さっきの男がカップうどんの「どん衛」を持ってやって来て、これ交換できますか、と、くだんのホスト風店員に訊く。「フィルムははずされましたか?」「はい。」すると店員は歯痛でもあるかのように顔をしかめて本当に難しそうに「ああ、ちょっとそれは、交換できないんですよお」と拒絶する。男は、何ともないのを装って黙って踵を返した。あなたは、どん衛でも食べてりゃいいじゃない。そうでしょう。
  そういうわけで、実はカウンターの後ろにカップめんがずらっと並べてあって、販売しており、各自で湯を入れて食せるシステムになっているのであった。

  人を交わしつつ指定された個室を足早に探す。広いフロアには、胸丈程度の個室が網目のように並んでいる。あっと立ちどまる。見つけた。私の個室は、フロアの中ほどの壁際で、背後にコミック棚がある。中に誰もいないのを上からちょっと確認し、胸のところだけの木戸を押して入る。黒いビニールを張った大きな椅子とパソコンだけが置いてあった。木戸が短く落ち着かないな。座ってみると、なんとこの椅子倒せない。これは困ったとこになった、こんなんで寝られるかなと不安に駆られはじめる。それこそ「交換」してもらいたくなったが、そうする自分も気に食わないので、このままだ。貴重品を入れる番号式の小さい金庫が据え付けられてあった。しかしどうも信用できなくて、しかも万一装置が正確に番号を記憶しなかった場合など、取り出すのにたいそう時間がかかるようで、そこに預けるのはやめにした。キーボードを触り、いちおうブラウザを起こすが、キーボードがべとべとで掃除されていない。やっぱり手が回らないんだな。そうして昨晩のと比べるのがおもしろく、私はネットカフェ評論家になろうなんてなどと心の中で吹聴。

ビジネス席…。

パソコンはこんなのだ。キーボードは手前の引き出しにあった。

個室から立ち上がって。

  さあて、ドリンクバーへ急ごう。しかし荷物のことはさすがに不安になった。これだけ大掛かりなネットカフェで人が多いのだから。一度は置いたまま出たりしたが、不安に苛まされるぐらいだったから悔やまないようにと、それ以後個室を出るときは必ず鞄を持ちだした。面倒だがその分 気は楽だった。
  ドリンクバーは離れていて向こうの壁の端だ。コインを入れなくてもボタンを押せばカップについでくれる自動販売機が並んでいた。そういう仕組みは変わってはいたが楽しさには欠けていた。ほか、スムージーという、フローズン機があった。珍しい販売機などはなく、飲み物の種類も結構ありきたりだ。
  さっそくついだ飲み物をこぼさないように持ち、個室へと戻る。今晩もこんなことの繰り返し。食事は鞄の中に入れておいた食パンなどを食べた。いかにも節約みたいだが、この旅行では食欲がとくに起こらず、また時間もとっていなかったため食べに入ることはなかった。その代わり頭の中が清明で、体が軽かった。だんだん私もほかの人から見れば修行気取りの様相を呈しているようである。
  個室の背後あたりには浩瀚にコミック本が並んでいる。漫画が好きな人なら、目の色が変わるかもしれない。私も一冊こだわらず取ってみようかと思ったが、やはり触らずそっとしておいた。

  さてこのネットカフェではどうしてし忘れてはならないことがあった。それは明日の帰りの高速バスの予約。小倉から京都までを探すと、幸い一社空いていた。もしどこも空いていなかったら、新幹線か、日程に余裕があれば手元のフリー切符で在来だった。しかし空いているという可能性が高いと考えられる要素があったといえばあった。本当は少し離れたところしかないコンビニで決済の予定だったが、疲れで面倒の極みに感じられてきて、そんな悪用する人なんていないと、責任を感じつつもこの場で決済する。オートコンプリート機能が有効で前の人の何らかの情報が記憶されていた。ブラウザの設定から辿ってすべて消した。それで消えたはずだか、何か仕組まれていれば消えない。もうこれからはこういう場合はコンビニ決済にしようと反省して終わった。

  とうに0時を回っているのに、フロア内ではまだまだ人の動きが感じられる。大分って都会なのか。自動販売機近くにあるトイレに入った。この店ではシャワー室を設けていて、 それがトイレの横にあった。しかしこんなところのシャワー室って、とも思わないではない。トイレはちょうど受付の人が掃除していたが、受付の制服のままで、そして素手で、とんでもない使い方をした人の後始末を恐る恐るしていた。さすがにこれは拙い。洗面場も汚れていて、あまりいいお客が来ていないようだ。酔客が多いという感じでもなかったが、実は結構いるのだろうか。

  1時ごろ、寝ようと努力しはじめた。頭を背凭れの片側に寄せて、椅子の上で三角座りしたり、思いっきり伸ばしたり。長いこと苦労してようやく、頭の中がふんわりしはじめた。もうこんなでは熟睡はできないだろうが、仮眠程度でいいと思った。そう思うことで寝られると考えた。
  このフロアは剥き出しの天井にオイルヒーターの管のようなものが通っているらしく、夜中になっても、軽くカンカンカンという音がしている。それがときにクリック音のようにも聞こえ、頭を悩ませた。それで室温はと言うと、これが、はっきりいって寒い。寝ているとなんだか薄ら寒いのだ。しかもそんな気温で座って体を曲げて寝ようとしていたから、かなり疲労が募って、またそういう体勢の血行不良ゆえに寒さも抜けなかったのだろう。黒革張りもどきのこんなところじゃ場違いに立派にみえるだけしか能がない何の機能も備えられていないこの椅子に、演技めいた酔狂のホスト店員の能面づらが重なり、この椅子に対して、かなり憎しみが込み上げた。誰がこんな汎用できない椅子選定納入した、ほかにもっとやることがあるでしょう! と叫んで思い出す、ここは自ら選んだ、ビジネス席。プリンターもだからちゃんと置いてある。なるほど、寝付けない椅子だと仕事も捗りそうだ。
  3時ごろだったか、寝るにはもうこの環境は最悪だと断じて目を固く瞑った。もうこの席を選んだ利点を感じて夢見るのはやめた。でも今からどうするわけにもいかない、明日は明日の予定があるし。バスを予約した以上、何としてでも小倉までは出ないといけない。最悪睡眠不足で何も手に付かなかったら、予定を放擲してとにかく小倉まで出なさい、と自分に命じた。
  しかしそうして明日やるべきことがあるというのは喜ばしいことだった。各停で小倉まで出るという大事業が、少なくとも、担わされているのである。しかも元の調子であれば、ほかに訪れたいところを訪れることもできる。楽しみではないか。それになにより、今私という体が、大分にあるのだ。こんな機会はめったにあるものではない。逃してなるものか、なるものか…、と、明日に備えるよう深い眠り込みを求めた。

  しかし結局は、うつらうつらしている状態で3時間が経ち、活動時間になってしまった。午前5時を回ったところだ。個室を出てフロアを歩くと、店内の明るさは来たときと同じ薄暗い感じのままだが、人の動きがほとんどなく、なんだか、早朝だった。朝一番に飲み物をもらい、個室にて待機。5時50分ごろ、意を決して受付に向かった。1800円と少し。ありがとうございましたの声を背中に、扉から出た。ふわりと明けやらぬ春の夜の空気と出合う。寒いが、それは冬から勘定すれば確かに緩んだもので、日中は暖かくなる未来をもった、冷たい、けれども希望の空気だった。
  目の前が大分駅だ。はっきり見取れる赤いネオンサインがその証。下り始発たる、6時18分の佐伯行きに乗る予定だ。コンコースはがらすきだが、特に緊張もなく改札を通った。

 

改札。

地下道の様子。

 

改札への階段方。

ホームにて。

あそこが地下道入口で、その奥に改札がある。

1番線の様子。

  ホームには50代後半の女性などが手持ちぶさたに待っていた。朝は大分に向かう列車の利用がほとんどだろうから、こういう列車に乗る人をおのずと注目してしまうのだった。主流から外れるような、影の人のようでありながら、目的を持って朝から向かうことに対し、鈍い冬の朝日のようなくるめきに共に励まされたり、何かの終わりを意識したりして、私は困った人だ。単純にそこにかよっているというだけなのに。

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