千里駅

(高山本線・ちさと) 2009年9月

富山方面を望む。
 
 
鉄道電話ですね。
越中八尾・猪谷方面。
天気が良いので対流雲が発生し「晴ときどき曇り」状態。
駅裏方。
 
 
 
 
古式ゆかしき白線一文字。
富山近郊だがこの辺はまだまだのどか。
 
今はこういう駅の敷地も少なくなった。
 
 
 
 
芝刈り機が置いてある。
 
 
 
端正な駅舎。近年のカラーリングが親しみを付加している。
 
 
 
 
 
 
裏口。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
富山空港が近い。
良く晴れたやや暑い初秋の昼下がり。
 
駅舎内にて。
こちら別室の待合室。
この駅の中枢?
 
夢の停車場への空間。
 

 涼は物心ついたときから国鉄駅のすぐそばに住んでいた。しかし人や車が大勢集まることはなく、家から出れば花々に囲まれた小さな木造舎がやや遠巻きに見られるのだった。駅の前はやや広場を残しての集落、涼も小さかったころは夕刻前、母に三輪車を引いてもらって遊んだことがある。
 停車場というだけあって、取り立てて通過がうるさいということもない。涼の物心つく以前は、「貨物で騒がしかったのよ。」 そう母はしばしば物語るのだが、涼はひどく少なくなった今の通過状況を精一杯想像で拡大し、知っている気になろうとするばかりだ。「だって何となれば思い出せるかもしれないし…」。
 しかし実際それは母の記憶のニュアンスでは全く涼の脳に記憶されていないのだった。涼の頭の中ではただ、父と夢中でタイル張りの風呂場でしゃべっているときに、こだましているワンワンいう音が、不快だとも、なんだろうとも思わないまま、記憶にしまわれているだけである
 涼は小学生にあがってから、ふと、なんで僕は駅のこんな近くに住んでいるんだろう、と思いふけることが多くなった。「だって特別だよね。仮にも国鉄だよ?」 「ここから富山でも東京でも行けるんだよ」 家族旅行の際、みやげもの屋で入手したスタンプ帳に付いた旅情ある路線図を毎晩寝しなにベッドに入って眺めている。
 幼いころ、この駅から母子健診にわざわざ富山まで手を引かれて出たことを憶えている。そのときの涼の富山市街の心象といえば、ひどく古い活気の宿る都会、だった。戦前風の市電が何度も大交差点を、石を割り叩くような音を立てながら行き交い、架線は複雑に網を成し、各ビルには広告塔が誇っている。「なんでわざわざ商品名を看板にしてるんだろ? もし名前が替わったらどうするんだろ?」 何よりも驚いたのは富山駅で、ふだん数両の列車しか知らない涼には、ただただ驚きのの世界だった。「いったい何両あるんだよ!! これだったら端から端までで市電の駅ができちゃうぞ。こりゃホームに列車を走らさないといけないな…。」 涼は富山駅のホームを母にいそいそと引かれながら思ったものだった。

 しかし小学校にあがっても来たいとは思えなかった。「だってあんな規模の駅がつづくんでしょ…とてもじゃないけど見て回れないよ。それにしても…」
 「ねえあんなに何両もあるけど、人の乗ってるの?」
 「当たり前だよ。しらんの? あぁまだ知らんのだね。」 
 「うん、しらん。」 想像がつかなかった。
 見たいものは山ほどあったのに、首をきょきょろするばかりでさっさと健診を終え、家に帰らされた。高山線の列車に乗ったときほっとした。デパートに寄ったこともあったが、喫茶店に入ってメロンソーダを飲ませてもらえたのは一回きり。ジュース一杯なのにひどく高くて、涼は恐縮したから、もう何も言わなかった。場所代という考えを持てるにはまだ早すぎた。

 「けれど僕も少しは大人になったよね。もう何両もの列車に驚いたりはしない。家族旅行にも行ったんだから。」
 ある日の夕飯の支度時、涼は、
 「ねえなんでそういえばさ、うちってこんなに駅に、近いの?」
 「今さらなんでそんなこと聞くの?」
 「だって高岡くんや砺波くんはこんなとこに住んでないよ。」
 「うちはね、昔お店をやってたのよ。」
 「ここお店だったの!? あぁ、それで…」
 玄関を入ったら広い土間があり、それから上がり框だった。自転車や車が置いてあったが、そういこうとだったのか。しかし秤があり、古箪笥に帳簿や書類がぎっしりあるだけで、店を営んでいた情景は、まったく思い浮かばないくらいになっていた。埃をかぶったがらくたに触ろうものなら、母が、もう触るな! 埃が飛ぶ! と叱責するのだった。なぜだか土間は、親も整理しちゃいけない雰囲気だった。
 「涼の部屋のあるところは幼稚園に年長にあがる前に後ろに増築したのよ。あそこだけ新しいでしょ。」
 涼はなぜ増築したのかと思っていてた。父の仕事の関係かと思っていた。涼がその部屋を与えられたのは学校に上がってからだ。

駅前の風景。
 
自転車置き場。
ものすごく凝ったトイレ。
千里駅駅舎その1.
その2.
変わらない一角という感じ。
自販機、案内地図と揃ってる。
駅前広場富山方。
 
駅前通り。集落型の駅。
 
富山方。
八尾方。
駅へ。
 
その3.
4.
5.

 ある日の晩、涼はいつものように父と風呂に入った。タイル張りだが、浴槽だけはステンレスのものに変えてある。白熱灯が暑苦しかった。涼はのぼせるのを楽しみながら、しかしなおも元気で、
 「ねえ、うちって駅に近いねぇ」ときゃっきゃっして言うと、
 「ああ。珍しいだろ?」
 「うん」
 しかし涼はうちの特殊性にやはり少し悩んでいた。簡単に言えば商いをやっていたということだった。
 「でもいいことばかりじゃないんだ。昔は駅員さんもいたけど、いまは無人だろう? 誰も来られるからところだから、誰が来るかわかりゃしない。」
 「え、どういうこと?」
 父は涼が怖がりはじめたのをしめしめと思った。
 「悪いやつが来るんだ。家もなく、リュック背負って駅を渡り歩いて泊まっているような人もいる。深夜でも列車来るだろ?」
 「そんな人も乗ってるの?」
 「誰が乗ってるかなんてわかりゃしないさ。誰が乗ってもいいものだしね。だから涼、変な人について行っちゃだめだぞ。悪いことをすると、ああなっちゃうんだ」
 「ああって?」
 「駅に泊まらなくちゃならなくなるんだ。」
 涼にはひどく不審な人の姿が思い浮かんだ。40くらいで、緑のリュック背負って、薄い色のジーパンはいて、きょろきょしているような

 「きちんと家に住まないと駄目だぞ」
 「住むにきまってるよ」
 と言いつつも、そんな世界があるのかと思い、わくわく半分、いやな気持ち半分だった。
 涼はその晩、もの悲しい気分になった。路線図を見ながら、なぜ鉄道、ひいては旅は哀しいのだろうかと思った。家族旅行の延長線、破線で叢に消えている。

 涼は小学校に上がってからというもの、家の用事を言いつけられることが多くなった。母に言われるのは適当にしたい気持ちだったが、父から言われると一呼吸置くも逆らうことはできなかった。連休のなか日に、「きょうは草むしりをするぞ。」と言われ、いつものように、いやだと言いたい気持ちを呼吸と落ち込んだ表情で表してから「わかった」。

 草むしりの場所は白のガルバリウム張りの増築部分、一階の涼の部屋の周りで、停車場線に面したところだった。予算の都合上、外構は造っていなかった。
 外に出るとやはり気分がよかった。涼は千里駅を眺めていると旅行している気分になれた。
 天気もよく、駅舎の周りにはコスモスが咲き、過ごしやすい一日だ。
 涼はときどきおもしろい雑草や虫を父に見せながら、父と屈みながら、草をむしりを楽しみ、夕刻前には片が付いて、
 「もう終わろ。これでジュース買って来い。おれのも。」
 「はーい」
 駅が近いだけあって、自販機には困らなかった。涼の目と鼻の先だ。
 細長い古い機体に小銭に入れてボタンを押していると、駅の方から一人の旅行者が歩いてきた。やたら疲れた顔して、大きな鞄を抱えている。涼はおもわずビクッとした。涼の想像したような40くらいの例の旅行者ではなかったが、もし同じことを続けていればあと十数年で、そんなの風貌になっていきそうな、若いといえるもう最後の歳ごろの感じのする旅行者だった。その者の目は定まらず、やたらあたりを観察している
 涼は、
 「さぁ飲もおーっと」と独り言ちながら、さあっとそこから離れ、父のいる芝生に戻った。父はその旅行者の後姿をちらと捉えたが、ただ、ああよその人か、と思ったくらいだった。
 「あぁ疲れた」といいつつ、父はジュースを開ける。涼は開けるのに苦労していた。
 「駅が近くてよかったろ!」
 涼はいい加減に笑った。
 不思議だな、と思った。例の旅行者は道ばかり歩いている。しかし涼は安心して芝生に腰を下ろしている。外構はないのに、入ってくるわけがないのが不思議だった。
 家と駅、涼はそれらを交互に重ね写しながらジュースを飲むと、破顔一笑、メロンソーダとはまた違う味わい方を、精一杯自分の庭で精いっぱい楽しんだ。


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