EUC-JP to UTF-8 和歌山線・五条駅

五条駅  - 桜の桜井線・和歌山線紀行 -

(和歌山線・ごじょう) 2007年4月

  帰るつもりで下兵庫から列車に乗った。五条止まりだったから、 たった10分ほどの乗車後に、乗り継ぎになるようだった。
 「でも五条駅に着くころには、もうほとんど日が沈んでいるだろう。」
  流れる車窓はすっかり橙色の照明効果を受けた舞台となっていた。
  列車は五条駅構内に入線していった。汽車時代風の構内で、やや広めだった。 大きすぎないところが、どこか良かった。
  そんな構内がなぜかまだ明るい。自分の日没の予想は冬季の感覚だったと知った。
  五条駅に滞在したくなった。
  どうするか迷いながらホームに降り立つと、 同じホームの向かい側にオーシャンアロー色の117系が停車していた。 乗り継ぎはこれか、と思って方向幕を見ると、たった7駅先の高田行きだった。 これではまたすぐに乗り換えなくてはいけない。 下兵庫に停車する上り列車は、和歌山から王寺までを直通する列車がほとんどなのだが、 朝夕はこうした短距離走が多くなる。
  ホームにたたずんでいると、すっかり夕冷えにつつまれた。 なのに、木造の白い上屋はとても暖かそうな火の色でやわらかく燃えている。 この落差にすっかり心を捉われた。
  私はこの乗り継ぎを捨てた。
  子供っぽい女子学生がニ、三人談笑している上屋の中に進み、 しつらえられた時計を見上げると、もう5時過ぎだった。 日が延びたんだなあ…ただそれだけでうれしかったが、 冬季に頻繁に遠出をしていたものだから、 こうして日が延びたことを旅先で知ると、 日の長くなったことがよけいにうれしくなった。

  駅舎から最も離れている3番線から117系が去ると、 黒い木造の詰所が現れた。ぽつんとあるのではなく、 いくつか並んでいて、それなりの規模を形成していた。 その向こうも構内で、何線かあるようだった。 率直にいって、昔のままである。 プラットホームは、フラップ式発車案内がよく似合いそうなホームだったが、 すでにLED式に取って代わられていた。実際、少し前まではフラップ式だったという。
  しかしいずれも夕暮れに染まり、新しいものも凋落の色に染め上げられ、 あらゆるものの時間が進められ、過去に送り返されていた。
  2番線から駅舎の方を見ると、駅舎は瓦葺で、明らかに木造だった。 今、3線構造の向こうに、主要駅にしてはやや小さめの木造駅舎が夕日を浴びている。 人は長い影を供にしてゆっくり歩き、 寒さがしっとりと染み入る落ち着いた夕暮れ。 いろんなものが冷たくなって暖かい光の底に沈んでいくようだった。

ホームの、上屋から外れた部分にて。両手に列車。 2・3番線ホームにて。左手に高田行き、右手に五条止まり。 右手の105系はここで折り返し和歌山に向かう。

島式ホーム、3線、単式ホーム、駅舎。 列車らが去って。高田・王寺方面を望む。 伝統的な3線構造だった。

平屋の木造詰所と2線、ホーム。 3番線から向こうはヤード。 ほぼ純木造の大きな詰所が残る。

ホームに立つ駅名標。 駅名標。すでにJRサイズに変わっている。 上りの隣の駅が、かつて話題をさらった北宇智駅。

白地に黒い字で書かれた名所案内板 名所案内板。県立吉野川自然公園が5分で案内されている。 この街もかつては吉野川の水運を利用したことだろう。

上屋と一緒になった駅舎。 2・3番線ホームから見た駅舎。 ここから見れば明らかに木造駅舎。

木作りの上屋。柱が一列に並ぶ。 上屋の下にて高田王寺方面を望む。

ホーム、線路内。夕日に向かって。 3番線にて橋本・和歌山方面を見て。

広い構内、ホーム。 3番線から高田・王寺方面を望む。 ヤードはそれほど広くないがそれが良い感じだった。

線路内と改札口。 2番線から見た改札口。街並みが透けて見えた。

島式ホーム。上屋の下にて。 地下道下り口から振り返って。

電照式駅名標。 地下道下り口前の案内板と駅名標。

下は緑色、上はクリーム色の壁の地下道。 地下道。

  駅舎のある1番線ホームへは地下道だけが通っていた。 跨線橋より地下道の方がいい。 地下道は、地上の構内風景において、旅客の渡れる構内踏切を内在させるから。 また、地下道の方がどこか楽だ。 ここの地下道は手狭で、主要駅のようなものではなかった。 大きな駅だと気負わなくていいようだ。
  1番線に出ると、階段上り口脇に隠れるように水場と現役の詰所があり、 列車の乗務員交代の折にはここから人が出入りするのを見かけることがあった。 ひと気のない小屋のような出入口のサッシが急に開いて、どきっとすることもあった。 この引き戸の向こうが駅舎内の奥まったところにあたり、 何かの折にちらっと覗いてみると鉄道員しか見られないような居室内で、 駅前からは窺えないこの駅舎の懐の深さを知った。
  1番線ホームは特に威厳というものもなく、こじんまりしていて、 改札口はからっぽの角ばったブースが二つ並ぶ、 改札機器などは一切ない昔ながらのものだった。 朝はこのブースにも駅員が立つが、 ほとんどの時間帯は左端の有人窓口のみで改札を行っているようで、 このときも一人の駅員が静かに、淡々と業務をこなしていた。

地下道への下り口、右手に詰所の側面。入口付近は雑然としている。 地下道を出て。右手に現役の詰所。

山型の上屋と単式ホーム。左手に駅舎側面。ホームには誰もいない。 1番線ホームを橋本・和歌山方向に見て。

線路内、単式ホーム。山型の上屋の下にて。 改札口付近から1番線ホームを地下道下り口方向に見て。

  駅舎内は例のごとく改装されていたが、あっと言うほどほどむかし風だった。 通常の木造駅舎の2倍程度の広さだが、有人出札口と券売機、 柿の葉寿司を売る店とKiosk,長椅子を並べた簡単な待合所があり、 この空間内に街の大切なものが凝縮されていた。 この駅舎内からは、この街の人の出入りと、よそからやって来た人の出入り、 どちらもが鮮やかに想像された。  
その空間内に、黄昏の洪水がなだれ込んでいる。  
今はどちらかというと、この街の人の時間だった。 そのためいっそう自分が外来者に思われ、旅心が湧き上がった。 みやげ物屋は、外来者をよそ者にしない役割があるのだろう。

改札口。上部にLED式発車案内板。右手に出札口。 駅舎内にて。改札口の風景。

奥に長椅子が二つある待合所。 待合所。

椅子を挟むようにして柿の葉寿司の店とKiosk. 「柿の葉すし本舗たなか」のほかにそしてKioskが入っていたが、 もう閉まっていた。

出札口と二台の自動券売機。上部には新幹線のポスターが飾られている。 待合所から見た出札口。

アスファルトの敷地、そして駅前通。 駅から出て。

  駅前にロータリーなどはなく、 ただ横長の敷地が左に向かって広がっているだけだった。 その敷地も、もうほとんど駅舎の影に覆われている。 ここに確かにバスが発着するようで、 左隅のほうにバス会社の恐ろしく古めかしい出札所があった。 中は狭く、風景は時代が二周りぐらい違うようだ。 敷地に入り込まなければ、 駅前の賑わいの残る緩やかな下り坂が始まる。 再開発がなく、手付かずの駅前で、 狭い二車線の下り坂の脇に飲食関係の2階、3階建ての建物が密集し、 建物が道路に飛び出しているようなところもあって、 懐かしい雑然感が漂っていた。 そして何もかもが夕日に染まり、タイムスリップしたかのようだった。

  駅舎はほかに例が見当たらないと思われるような造りで、 従来の木造駅舎の正面に四角いコンクリートの駅舎が左横から突っ込んでいた。 増築したという。しかし瓦屋根は端から端まで残っているから、 木造駅舎だとすぐにわかる。駅舎の正面から右側に建物は延びていて、 そこが現役の駅務室と詰所になっているようだ。 表から見ると、そこは多くの木造駅舎と同様、 もぬけの殻になっているように思える外壁になっていた。
  駅からちょっと出たところに屋根のない広い駐輪所があり、 まだ多くの自転車がとまっていた。 赤い日が差す中、高校生らがぽつりぽつり自分の自転車を引き出しては出て行く。
  駅舎の軒下には、迎えの車を待つ高校生らがうつむき加減に佇んでいた。 駅から自宅が遠距離で、自転車は使わないのだろう。 地方の駅の夕方にはよく見られる光景だ。

横に長い駅舎。 五条駅駅舎。

駅前広場の入口と駅舎。 五条駅駅舎その2

アスファルトの敷地。左の駅舎に沿ってタクシーが駐まっている。 駅前広場の風景。

妻型の屋根の単純な白い建物。 バスの待合室。

くすんだ色をした汚れた木の壁の室内。床はコンクリート打ち放し。 バス待合室の風景その1。

全体が黄色い掲示板になった壁、水色のはげた長椅子、ガラスの入った小さな窓口。 バス待合室の風景その2。 とにかく昔の雰囲気。

アスファルトの敷地を縦長に見て。ほとんどが影に覆われている。 バス待合室付近から見た駅前広場。 電波塔のある建物はNTT西日本五條ビル。

駅前広場。右奥に駅舎。 右手に駅舎。その左横からは、 駅構内の留置線のあるスペースに入れるようになっている。

最初幅は広めだが、途中建物が出っ張ることで幅が狭まった坂道。 駅前通。

  光の洪水の中、ゆるやかな坂道を下った。 居酒屋や飲食店が軒を連ねている。 夕方だというのに人が余り歩いておらず、 自動車の通りも少ない方で、歩きやすかった。良かったというべきなのか…。 信号のある須恵という交差点にでたが、 これもたいへん小さなもので、道路の白線も消えかかっていた。 この交差点から脇へ脇へと入ると、恐ろしく狭い路地が毛細血管のように走り、 魅惑的な路地裏の世界がはじまっていた。入り込んでみたくなった。 だが日暮れが差し迫っていたし、 また入っていいか迷うほどの路地だった。

小さな交差点 須恵の交差点。

建物と建物の隙間。 階段もある物凄く狭い路地。

民家と民家の隙間にできた道。 向かい側にも路地がはじまっていた。

青地に白い字で町の名前が書かれた縦長の表示板。普及版とは違っている。 街区表示板?

  建物の密集した須恵の小さな交差点を過ぎると、 下り坂が急になっていて、いきなり風景が眼下に見え広がった。 五條の街らしかった。 五条駅を使う人はこの坂道をいつも上ってくるのだと思うと、 冬の息切れで胸がつんつん痛いのを感じた。
  この坂道を下らずに、駅へと戻った。 くねった上り坂で、建物で駅が見えたり隠れたりした。

遠くに山並み、手前に街並み。 駅前通の下り坂に差し掛かると五條の街並みが広がる。 紀伊山地が奥に控えている。

道の脇は歩道もなく、がたがたになっている。 須恵の交差点の手前にて。向こうに駅。

道の行き止まりに見える駅舎。 駅へ戻る道。

駅舎。 五条駅に帰ってきて。

  駅に戻ると、私が駅を出たときにいた人が、まだ迎えの車を待っている。 ちょうど軽自動車が駅前に乗り付けたが、 その人は無反応で、別の人の車だった。 こんなじんわり冷たい夕暮れに長く待つのはいやだな、 と思いながら駅に入った。それからしばらくしてだった。 その女子高生が自動車に吸い込まれていったのは。
  列車の時間になったので、一つだけ開いた改札口を通り、 向かいのホームに行って2両編成の105系に乗り込んだ。発車は18時だ。 中は高校生らがいっぱい座っていたが、座席があいていて、私も座ることができた。 座ったとたん、日があっという間に沈んだようだった。 急に列車の中が明るく感じられるようになった。 雑談の中に聞き取りにくく車内放送が紛れ込んできた。そののち、列車は発車した。 車窓はどす黒くなっていて、山の端だけがわずかに赤黒かった。 横には部活動帰りの男子高校生が二人座っている。 隣の高校生は体格があって、上は詰襟なのにズボンが毛玉だらけの黒いジャージだった。 彼は隣の友人と談笑しつつ、床に置いたボックスの鞄から、 飲みさしの1リットルの紙パックの牛乳をおもむろに出して、飲みはじめた。 軽石みたいな表面の手のひらに、赤黒い点のあるのを友人に見せた。
 「それどうしたん。」
 「刺された。」
 「えっ? 刺された?」
 「あいつがかってに彫刻刀で刺して来よった。」
 「…。」
 「…あかんわ。あいつはあかん。」
 「そんなやついるの。」
 「でも五條のやつらは勉強はできんけど、人間性はいい。」
 「え! 人間性が、いいの?」
 「うん。」
 「…… (は?) 」
  相手はふざけすぎて、刺したというようなことらしい。 そしてたぶん相手は謝ったのだろう。
  しかし彼の嘆息は明るい車内の床に転げ落ちた。 彼は帰り道、それを石蹴りしていくように、 真っ暗な道を自宅まで歩いていくのだろうか。

  疲れていたのでときどき寝入った。 目が覚めるのはドアが開いて冷たい空気が流れ込んでくるときだった。 ぼうっとしながら列車を王寺まで乗りつけた。 五条から1時間。五条は奈良県北部の片隅にあるのだった。 奈良県南部は? 紀伊山地の塊。
  時刻は19時だった。王寺のホームでは、 コートを着た帰宅途中の人たちが思い思いに列車を待っていた。 221系の加茂行きに乗り換えた。列車はかなりすいている。 クロスシートの背凭れが体になじんだ。 はすむかいに座っている仕事帰りの4人組の男性たちが、 急にひときわ大きな声でしゃべった。
 「ここから関西本線経由でいっても、奈良線経由で行っても運賃は同じなんですよ。」
  ああ、選択乗車の話か、と思っていると、4人の中で上司らしい年とった人が、
 「でも………時間の無駄やわな。」
  と言った。周りは
 「まあ、そうですね。」
  と追従したが、私はあの上司らしい人の台詞で、雷で打たれたようになった。 自分が昔持っていたそういう感覚を、このときありありと思い出したからだった。 つまり、駅は定期券を通すだけのところ、列車は移動するためだけのもの…。 そう思わなくなって、もうだいぶ年月が経ってもいたのだった。

  木津で降りた。19時半過ぎだった。加茂まで行って、 関西本線の魅惑的な山間の区間に乗ろうかともふと思ったが、 もう真っ暗だったし、明日のこともあるのでやめた。 木津駅は新駅舎の竣工をしていて、この先しだいに新しいものに囲まれていくようだった。 それで、みやこ路快速を待ったのだが、 遅れが出ているようで、寒い中20分近く待つことになってしまった。 ホームには暖房の入る待合所が新設されたのだが、そこは満員御礼。 ようやく着いたみやこ路快速はがらすきで、私の寝床となった。 ほとんど眠りながら京都着。明日も和歌山線を回る。回れるだろうか…。

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