EUC-JP to UTF-8 桜井線・香久山駅

香久山駅  - 桜の桜井線・和歌山線紀行 -

(桜井線・かぐやま) 2007年4月

  巻向から乗った列車がたまたま高田まで直通するものだったから 三輪、桜井で降りずそのまま乗ってしまうことにした。
  桜井駅着。桜井駅は真新しい橋上駅で、明るい駅だ。 新しい感じのするホームに停車し客を降ろすと、 列車はそれまでと同じように、すぐにドアを閉めて出発した。 ここから先は日中1時間に1本になりそれまでの半分になるが、 桜井でしばらく停車することもなく、交換待ちをすることもなく、 そういうことをまったく感じさせない。
  それだけに、楽曲のテンポが、急に半分に落ちた気がした。
  ここまでの駅の利用者は、30分単位で日々の行動を考えるのだろうけど、 ここから先は1時間単位になる。ところがここから先というのは高田までで、 香具山、畝傍、金橋の3駅があるだけの9.7km. 街中にあってこの短い区間だけ本数が半分になるのだから、 ちょっと不思議な区間だ。そう思って私は興味を抱いていた。 本数は半減するが桜井高田間は近鉄大阪線がしっかり平行しており、 町の人の不便はなさそうだ。
  平行しているから、JR線が基本的に1時間に1本になってしまったのだろうか。
  桜井を出てしばらくすると、左手に山地が視界に入ってきた。 これが吉野の山地で、柳本駅の跨線橋から望遠した奈良盆地の奥の山々だ。 桜井線は奈良盆地を半ば取り囲む形になっている。

  桜井から3分ほどで香久山駅に着いた。 万葉集に何度も詠み込まれた天香久山(あまのかぐやま)に由来する名をもつ駅だ。 この山は駅の南西約1.8kmのところにあり、標高は152m. かつては神聖な山として大和三山に数えられたが、 いまでは気軽に登れるハイキングコースのような道が通っている。 なおこの山の向こうが全村にわたり開発に著しい制限がかけられている明日香村だ。
  学校教育で全国的に教えられる和歌の歌枕がそのまま駅名になり、 それが現在も活躍している桜井線に連鎖しているのはさすが大和といわざるを得ない。 しかしこうして目の当たりにしてみると山水と地名だけは変わらず、 生活が変わっていたということを特に感じる。 古代人はここに鉄道が通い、 神聖な山の名を含んだ名前の駅ができるとは思わなかっただろう。

  桜井から来ると橿原市に入ってすぐのところにある駅だが、 市境界が変わったことを感じさせるものは特にない。 ホームは右手にあるだけだったが、 ホームから階段を降りると、ちゃんと木造駅舎があった。 それにしても驚かされたのはホーム脇の植え込みの奔放さである。 ツバキ、ソテツ、背の高い常緑広葉樹、これらが鬱蒼と茂り、野生化していた。 その後ろに一本桜のあるのがささやかに見えたぐらいだ。 有人駅だった時代はこれらの植え込みもきちんと剪定されていたのだろう。 少し恐い姿に変貌した植え込みが無人駅の年月を伝えていた。

植え込みとホーム。 ホームを桜井方面に見て。

ホームと植え込み。 畝傍・高田方面を見て。 植え込みが伸び放題だ。

駅名標と植え込み。 ツツジに埋もれるような駅名標。奥に待合所。

こげ茶色の室内。作り付けの長椅子。 開放式待合所の中の様子。 中にわざわざ電照式駅名標が設置されていて珍しい。

畝傍・高田方面を望む。線路は住宅地を縫っている。

ホームとその先の住宅地。 ホームから見た駅舎。

  ホームから短い階段を下りると、 古い駅舎が延ばした軒の下に入り、改札口の前に着く。 そのあたりは薄暗く、植え込みの緑の深さもあいまって翳り、 しんみりした雰囲気だった。 もしこの駅が町中になかったのなら不気味さを感じていたかもしれない。 しかしホームから階段を下りて駅舎、というこの形式は、 私の気に入っている形式だ。 駅舎に吸い込まれるように、迎えられる気がするのだ。

改札口前の暗がり。 改札口前。

軒下から小道を見て。 右手の小道を行くとトイレへ。 改札口前は緑の多い雰囲気だ。

  駅舎の大きさの割りに駅舎内は手狭だった。 それは駅舎の多くの部分を占めるのが駅務室だからだが、 それは今はもう締め切られ、壁の向こうで埃とともに沈黙している。

窓、作り付け長椅子。剥げた床。 駅舎内の風景。

出札口の前に置かれて改札機器と券売機。 券売機と改札機器。桜井線の駅はいつもこのパターン。

妻形の屋根のついた駅舎出入口。 駅舎出入口。 三角の屋根のついた木造りのポーチがあるとすぐに木造駅舎だとわかってしまう。

香久山駅駅舎。 香久山駅駅舎。

小ぶりな木造駅舎の香久山駅駅舎。 香久山駅駅舎と駅前広場。

  駅舎は小型の木造駅舎だが、壁と屋根が派手に部分的に補修されて パッチワークのようになっており、限界を感じさせられた。 また、この駅舎の多くの部分は使われなくなった駅務室であることを考えると、 ほとんど駅舎のシンボルとしての象(かたち)しかなく、 ここももう長くないかもしれないと思えた。
  このような駅舎がさらに補強や補修を必要とするとき、 駅務室の有効な活用のめどなどが立たないと そのまま取り壊しになってしまうことが多い。
  しかしこうして概観はくたびれているものの、 待合室内やホームの待合所には落書きなどはなく、まっとうに使われており、 やはりホームのみの駅やゲートだけの駅にはなってほしくないものだ。
  駅舎前の広場は広すぎず、 この駅舎にちょうどいい広さで小さな町の駅といった感じ。 駐輪所は設置されておらず、駅舎の周りに三々五々駐めているようだ。

小さな駅前広場、その先はT字路になり、民家に突き当たっている。 駅から出たときの風景。

駅前広場と駅舎。自転車が数十台駐められている。 道路から見た駅前と駅舎。

ピンク色の二階建ての局舎。屋根の隅がとがっている。 駅のすぐ横に香久山郵便局。

細道と民家。 郵便局と反対側の道。

  ホーム側は田んぼと民家の広がる風景だったが、 駅舎側は細道に密な住宅街になっていた。商店などが連なる気配は無い。 ここから600メートル弱、東に行ったところには近鉄大阪線の大福駅がある。

  駅に着いて7分ほど経ち、駅前を歩いていたとき、 急に疲れを感じ、意欲の減衰を感じた。 無人駅がつづいたこと、そして空が曇りになったことから、 少しでも明るい街の大きな駅を見たくなっていた。 また、ここからは今までの2倍の、1時間ごとの行動になると思うと物憂かった。 そんなとき、あと2分で桜井行きが来ることを知った。 強い逡巡がはじまった。 「乗ろうか…それとも予定通り1時間滞在しようか…。」 だってここに来てまだ10分と経っていない。
  町の人たちが3人ほど駅へと入っていく。入線は近い。 どうしよう。迷いながらホームに上がり立っていると、 列車が来てしまい、私はそれに乗った。 9分で去ってしまった香久山駅。「こんなこともあるんだ。」
  都市との出会いは楽しみだったが、 針穴から糸を抜くような不安な心残りを感じた。

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