桜の桜井線・和歌山線紀行
真冬の2月ごろ、路線図を見ていて、
こんな近くに木造駅舎を連ねる長大で長閑な路線があったのに、なぜ黙殺していたのだろう、
大方取るに足らないものとされていると自分も感じていることに、
いっさい振り返らず異議なしとしていたんじゃないの? と、はっと目覚めて、
よし、せっかくだから万朶の桜、駅を飾る時節に行こうじゃないか、
とさっさと計画を立てて、抽斗の中に入れておいた。
珍しくさっと行程を決められたのは、きっかりした電車型ダイヤだったからだった。
その路線とは、桜井線と和歌山線。この二つは互いに重要な関係にある。
奈良を出て桜井線、和歌山線を経由して和歌山に行く列車もあるし、
同様の経由名称で、王寺へ行く列車も少なくない。
奈良においては双子の地方交通線のようだ。
だいたい1日目は桜井線で、2日目は和歌山線ということにした。
宿泊はなく、帰宅するのである。というわけで、
旅行記としては、ちょっとつまらないかもしれない。
時節はやはり4月初めにやってきた。例年晴れる日が割とあるようだ。
貧しい囀りの放送を聴きながら、
京都を7時15分に出る奈良行きに乗った。
下りではあるものの、やはり人は多い。列車は出発。
交換待ちのたびに開いたドアから寒気がたっぷり入って車内が冷えるのは
いつものことだ。列車が待っている間、
221系の上りの運用するすると抜けていくこともあった。
列車はまたふたたび走り出す。向かいの窓を見ていると、
なんだかまだ咲いていないようである。
ひょっとしたら大外れかもしれないと思った。奈良には8時22分に着いた。
あんな揺れの強い鶯色の列車に1時間以上揺られるのも、
通勤の時間帯のせいか、あまり感じるものはなかった。
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