紅葉の関西本線・冬の草津線(近畿1)─関西本線編

2008年12月

  近場で、汽車からもみじ狩りしたいと願うようになったが、この年は空色が悪くて師走のはじめにまでずれ込んだ。いいところなのに最近すっかり訪れなくなっていた関西本線の山間部に、場所は決めた。なぜ放っておいたのだろうと不思議な心地がする。きっと、無意識に取って置いたんだ。

奈良線ホームにて隣のホームを。あの乗り場に新快速が停まることもある。

各駅停車、奈良行き。

ドアが多い。

 

車内にて。

  厳寒の奈良線を、年中かってに春めいている萌黄色の古い電車で、京都から乗り通す。途中の駅にて、交換し終えるまでドアが開け放しなのはじつに身に堪えた。そうでなくても各停だから、ドアはたんびたんびに開く。脚を椅子の下の暖房器具に押し当てるようにしてしのぐ。交換するのはクロスシートの入った白い列車で、やはり通勤時間帯は上りにいいのを入れてあるんだな。単線である。私鉄と並行しているせいもあった。しかし何年もかけて複線にするそうだ。
  冬の未明はじっくりと深い縹色で、まだ改札の開いていない桃山などにも着実に停車していく。ただでさえ老体なのに、これだけ加減速がしきりだと、傷みも早そうだった。それとも特化されているのだろうか。青紫のロングシートで、停まるたびに体を横に踏ん張る。
  師走を迎えて、この奈良線沿いは、まもなく一年でいちばん厳粛で、大いそがしになるのを想像しつつ、今年の暮れるのをちょっと名残惜しんだ。そういう時期の沿線にも訪れてみたいな。
  明けると早く、特別でない風景になった。奈良行きなので、意識して、途中の木津でしっかり降りた。今降りないと接続はなかった。加茂からはじまる山間部の気動車は、時間1本しかないのだった。木津のある京阪奈は新しい郊外で、ニュータウンの人々が寡黙に列をなしているが、私はわずか数人とともに加茂行きに乗って、逃げました。すでにピンクの服の掃除の婦人も乗り込んでいて、この方向に乗るのはあらかた遊興の人だとみなしてよさげだった。

木津駅。

 

  木津から加茂はひと駅、これがいつも面倒くさい。でもこうして加茂へは、立派なクロスシートの白い電車が、どんどん雑木林に入っていくという楽しいものとなっている。そしてこの異様な乗り継ぎは、そのままに、これまでの一連の車窓を細切れにし、一方向に向かっている意識を砕いて、いまひとつ、笠置あたりが本当に京都側から繋がっているのか、いつも訝しげに傾首させるのだった。関西本線を乗り通せば、そんなことはないだろうものの。

  加茂ですぐに乗り換えたのは、発車が早いのもあるが列車はガラガラ轟音を立てるエンジンを掛けていて、今にも力なくパタムと折戸を閉じて、轟然と往ってしまいそうだったので。運転士も乗り継ぎ客を確認するように、間際は、外に出て、せわしい。
  気動車は出てしまうと早い。もう待ってくれと追い縋ってもだめな感じだ。でも余裕のある地方では行きかけたのを停めてくれる。ぐんぐん山を潜り、「これは電車では無理だわ」、と、思わせて、気動車の面目躍如だった。

  ほとんど長椅子仕立てなので、薄暗い車内は広く感じ、あまりぬくまってはいないが、くすんだカーテンに装飾された各々の大きな一枚窓は、露でうっすら曇っていた。客は二三でほとんどいない。その水滴のぼんやりしたむこうの木津川沿いの紅葉を、一人首をよじって見ているハンドバック抱えた男性が座っていた。ああ、きっとどうしても来たくなって、ふらりと乗っているのだ、と確信していたが、笠置に着くなり、その人は、あ、着いたわ、とさっと立って降りてしまった。

 

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