宮越駅

(江差線・みやこし) 2009年5月

車内にて。

  朝日が差して表土や空気がそれに無理やり馴染みはじめたころ、一晩過ごした桂岡から始発の汽車に乗った。乗客は自分ひとりだけだけで、首をかしぐ。「木古内まで出る人はいないのかな。」 腕時計を見ると朝7時を回ったところで、早くも遅くもなかった。
  夜の森はもうそれはたいそう怖かったけどこうして朝になってみれば何でもないほど親しみやすく、列車は針葉樹の山裾に沿いつつより深山へと進んでいった。道南には杉林があるのだが、内地で見慣れている者にとっては別に自然な光景だった。
  谷のカーブを曲がってまもなく宮越に着くというので、「あんまり桂岡から距離はなかったんだ」。 昨晩はどんな時間でも、長く感じられた。

  列車を飛び降りる。昨晩と同じ運転士だが、気づいていない感じだった。短いホームから短い階段を下りたところが純木造の待合室、中に入ってみて、据え付けの木の長椅子を見るや、ここでならもっと心地よく寝られそうだったかも、と思うも、昨晩通りかかったとき明かりがなかった気がしたのを思い出し、またここでも虫の死骸やクモなどもけっこう見つけ、「やはりここも難しいか」。室内にはなぜか鏡があり、これも夜のことを考えて唸ってしまった。明かりが点かないというのは虫が入らないからいいんだけど、闇に溶かしこまれつつ就寝準備をするのはかなり精神力がいりそうだ。山小屋なら山目的の人しか来ないが、駅というところにゆらめきがある。

これが駅舎…。

江差方。点字ブロックや滑り止めゴムなど中途半端に近代的だ。 近隣駅のホームにはまずないので。

駅名標。これ一つだけ。

 

 

江差方面を望む。次は桂岡駅。あの建物は人家ではなく水門調整室。

湯ノ岱・木古内方面。

 

内地だと細道になりそうな道。

ホームへの階段。新しいようでかなり傷んでいる。

駅舎内にて。

 

奥トイレ。

駅舎は小さいが、長椅子の長さは十分。

 

 

宮越駅駅舎その1.

集落は見えた。

トイレが付属しているのがよくわかる。左手は花壇?

駅舎の板壁の様子。中空になっている。

ここから見るとそんな人里離れた感じはしない。

これが見えて一見ほっとするが…。

  駅は青く鋭い杉の健やかに育ちける森の裾にたいそう近く、そこまで歩くと北海道らしく惜しげもなくいい道が縫い通(かよ)っていた。断続的にトラックや自家用車が飛ばし行くが、ほんの少しでも人の姿が珍しいらしく、不思議そうな顔をしたり、えっと戸惑ったりしているような制動をしたので、長居せずそこからすぐ離れた。ちなみにここより木古内側は雨量規制が出るそうで、ちょうど、山間区間の入口手前だ。するとさっきの桂岡なんかは開けはじめたところなのだろう。ということは、あんなのでぎゃあぎゃあ言っていてはいけなかったらしい。

  そういうわけで駅のまわりにはこれといって何もなく、人家は見当たらなかった。「こんな駅で何かあったらどうすりゃいいんだろう。車でも止めるしかないか。ヒッチハイクって危ないというけど、そうも言っていられない助け合いの必要な危機もあるようなところかもしれないな。」

  実は、宮越の集落が河を挟んだ向こうに木々の間から屋根を覗かせてはいたが、このときはほとんど印象に残っていない。どだい集落かどうかもわからず、山仕事の小屋群(こやむれ)かもしれないと思っていた。
  天の川と名付けられた、けっこう広い川にはまた上等な橋が架かっている。こんなところでも橋も立派な目印で、地図には宮越橋と大きく出ている。桂岡にも流れているが、駅から結構離れていたらしく気付かなかった。

自然の中に佇む宮越駅。

 

宮越橋。

天野川、上流の方。水が滞留している。水門のせいかな。

 

下流、桂岡方。右手頂上草原状になっているのは桂岡で見えた大平山(たいへいざん)。

駅方。

宮越駅その2.

 

松の木道路踏切と名付けられてあった。

湯ノ岱方。ここから先は森の中を縫う。

その3. 踏切部分に鉄枠を使用し丈夫にされていた。除雪車の絡みもあるかもしれない。

優先道路へ。手前の横断歩道は削ってあり、廃止されてある。

湯ノ岱・木古内方。ここより21キロ先まで雨量100ミリ規制。

桂岡・上ノ国・江差方。右手もしかして八重桜?

なんであそこだけ木がないのかなと近づいてみた。右手の看板は宮内越川改修工事現場事務所入口とある。

まずは陽樹が育ち…。何か札が掛かってるなと目を凝らすと…。

「ここは道有林」 少し気持ち悪い絵だった。

道道5号から見た宮越駅。

踏切の警戒標識はもちろん汽車タイプ。

その4.

  駅に着いてしばらくしたとき、元気な爺さんがいわゆるカブに乗って駅に突っ込んで来た、が、客は稀だろうから掃除かなと思っていた。しかしその後すぐ江差行きが入ったら、やあ間にあった間にあった、と話しつつ、私と一緒に乗車。宮越の集落から飛ばしてきたのだろう。さすがに原付で江差まで行くのはしんどい。上ノ国で海辺に出て、それからさらに数キロ北上しないといけないし、風もたいへんに強い。私が乗車しなければ、その人は、汽車少ないけど大丈夫かいな、と思って声を掛けただろうし、その爺さまが乗らなければ、私は、やっぱ掃除だったか、と心のうちでつぶやいただろう。
 「かってに掃除係にするな!」
  どんな人でも若返りそうであった。そして青春や旅立ちを謳えそうな、これから向かう裏街道の海辺の市街が思い浮かんだ。

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